Mikako Hayashi-Husel

2022年4月7日9 分

ドイツ語読解力の鍛え方

「読解力」というとみなさんはどのような能力を想像しますか?

みなさんが想像するのは、一語一語丁寧に調べて読み、日本語に翻訳していくような読み方ではありませんか?

でもそれは「精読」という一つの読み方に過ぎません。

辞書や文法書を傍らに読み解いていくのは典型的な古典語文献の読み方とも言えますね。

けれども、ここはドイツ語や古典語は脇に置いておいて、あなたが日常生活でどんなものを日本語で読んでいるのかちょっと考えてみてください。きっと毎日いろんなものを読んでいることでしょう。Twitterのツイート、Facebookのフィード、Instagramのコメントなどの短くて話し言葉と変わらないものや、Yahooニュースなどのニュースサイトの見出し・小見出しやニュース記事、ブログ記事、様々な書類、利用規約、使用説明書、広告、商品説明等々ありとあらゆる文字情報です。いかがですか?

人によっては娯楽小説や文学作品、実用書などのきちんとした書籍を読むこともあるでしょう。

あなたはこうした多種多様の文字情報を全て同じように読んでいるでしょうか?

例えばSNSの投稿などは大して考えもせず、ざっと「流して」ませんか?ニュースサイトの見出しもそんな感じではありませんか?

では、興味のあるテーマのブログ記事や商品紹介記事、あるいは何かの使用説明書などはどうでしょうか?そのテーマに関して知りたいと思うキーワードや特定の情報を探しながら読んでませんか?

きっと、書類や利用規約、場合によっては書籍もこのような読み方をしているのではないでしょうか。

もちろん、重要な書類や契約は何か落とし穴がないか精読する人も少なくないと思います。

何を流し読みし、何を情報収集しながら読み、何を精読するかは人それぞれですが、読み方自体は大きく3種類に分けられます。

  1. 大雑把に読んで大意を掴む - global lesen

  2. キーワードや特定の情報を探しながら選択的に読む - selektiv lesen

  3. 段落ごとの主旨を理解できるように精読する - detailliert lesen

以下にこの三種類の読み方をドイツ語でできるようにするための方法をご紹介します。

これは同時にゲーテインスティテュートのドイツ語検定試験のLeseverstehen部門の攻略法でもあります。

このため、冒頭で述べた「辞書や文法書を傍らに読み解く」スタイルの読解力ではなく、辞書や文法書なしに比較的短時間でドイツ語の文章を読み解く力を鍛えることになります。

1. 大雑把に読む - global lesen

大雑把に読んで大意を掴むには、まず読むテキストがどのようなジャンル・種類のものなのかを判断し、該当するジャンルまたは種類の特徴を知っている必要があります。

例えばニュース記事であれば、大見出しと小見出しを読むだけでその記事の要旨が分かるようになっています。

もちろん、クリック数を稼ぐために本来の記事内容にそぐわない煽る見出しもありますが、読んでがっかりするような類のものはここでは除外しておきます。

見出しの後にサマリーがある場合もあります。サマリーには通常いくつかのポイントが列挙されていますが、その中でも見出しで言及されているトピックと直接関連するものがその記事における最重要ポイントと解釈できます。

論説文ではどうでしょうか?

この場合もタイトル・見出しが重要であることには変わりありませんが、さらにテキストの最後に来るはずの結論部に注目する必要があります。

タイトル・見出し⇒サマリーやアブストラクト(あれば)⇒結論の内容を線でつなげるように読むわけです。

Feuilleton(文芸欄)ですと謎なタイトルがついていることもありますが、その場合でも、筆者の一番言いたいことは最後にまとめてあるはずなので、真ん中をすっ飛ばして最後の段落を読むのがお勧めです。

求人広告や住宅情報もタイトル・見出しがある場合が多いですね。

つまり、「大雑把に読む」とは、タイトル・見出しと本文の最初の段落(キーワードやトピックの定義またはサマリー)、そして最後の段落を読むのが王道と言えます。

この方法で大意を掴めるのは、あなたがある程度知識を持っている分野のトピックに限られます。

語学試験で専門的なテキストが出題されることはまずありませんので、普段からニュースになるような話題に関心を持ち、キーワードを押さえておくことをお勧めします。

例えば2022年4月現在の最大トピックはウクライナ戦争(der Krieg in der Ukraine, der Ukraine-Krieg)ですが、関連するキーワードには以下のようなものがあります。

  • das Kriegsverbrechen 戦争犯罪

  • das Massaker, der Massenmord 大量殺戮

  • der Angriff 攻撃, die Invasion 侵略

  • die Flüchtlinge 避難民、難民

  • die Sanktionen 制裁

DW、Tagesschau、ZDFなどどれでも構いませんが、毎日ヘッドラインをチェックすることで、重要トピックやキーワードを学べます。

ここで大切なのは、分からない単語や熟語を全て調べて理解しようとしないことです。繰り返し出てくる重要そうな単語だけ押さえましょう。そうでないと負担が大きすぎて長続きしません。

興味のあるトピックであれば、本文の最初と最後の段落を読みましょう。

2. 選択的に読む - selektiv lesen

Selektiv lesen 選択的な読み方は、効率的に情報収集をするための重要な Lesestrategie 読解戦略の1つです。

テキストの中から必要な情報をすばやくピックアップできるスキルがあれば、情報が溢れている現代において混乱せずに、また時間を無駄にせずに済みます。

みなさんもきっと無意識に普段から選択的に読んでいると思います。

例えばラップトップを探しているとして、自分にとって重要な製品のフィーチャー(ディスプレイの大きさ、メモリー容量、グラフィックのスピードなど)を技術仕様の中から探し出して複数のモデルを比較したり、価格を比較したりなどが典型的な選択的読解と言えるでしょう。

アパート探しや職探しでネット検索する場合も同様です。特に求人広告はB・Cレベルの読解試験で出題されることが多いです。

これこれの条件に当てはまる求人広告はどれか、といった問題です。必要な資格や開始時期、期限付きか否かなどがチェックするポイントで、複数ある広告の中から問題の条件を探し出すことが求められます。

また、複数の段落からなるテキストと、キーワードまたは1文からなる見出しのようなもののリストがあり、どの段落にどのキーワードまたは見出しが相応しいか答える問題も選択的な読み方で解くことになります。

分からないキーワードであっても、本文の中に同じワードがあるかどうか探すことで正解に辿り着けることが多いです。

もちろんC2レベルになるとひねりがあって、同じワードが本文に使われておらず、同義語を探さないといけないこともありますが、B2レベルまでは同じワードを本文中で探すトリックで十分通用します。

試験では辞書が使えないので、読解を左右するのは結局のところ語彙力ですが、文中の単語を全て知っている必要はありません。知らない単語が多すぎれば太刀打ちできませんが、6~7割の単語を知っていれば、前後関係から知らない単語の意味を類推することが可能になります。語彙だけでなく、一般常識やトリビアの知識などが多いほど類推解釈の幅が広がります。

このため、ただただ語彙を増やそうとするのではなく、知識を増やすことをお勧めします。

初級レベルでは教科書や問題集の範囲での勉強でも十分ですが、Bレベル以上ではできる限り原文に当たって知識と語彙を増やしていくようにしましょう。

3. 精読する - detailliert lesen

ここで言う精読とは、段落ごとの Hauptaussage 主旨を理解できるように読むスタイルを指します。1つ1つの表現を吟味したり味わったりといった文学的あるいは文献的な読み方は辞書がないと無理なので、そこまでの精度は試験では求められていません。

精読が必要なのは、ゲーテインスティテュートのA2試験では Teil 1、B2試験では Teil 3、C1試験では Teil 1などです。

それ以外でも、最初は選択的に読み、次に精読が必要になる問題がありますが、ここでは長めの Lesetext が提示され、段落ごとの Hauptaussage が何かを問うタイプを念頭に置いて説明します。

精読を始める前に大切なのは、タイトルや前振りからトピックが何なのか理解することです。そして、そのトピックについて自分が何を知っているのか考え、どんな内容の可能性があるのか見当をつけることです。こうすることで「木を見て森を見ない」事態を防げます。

最初にタイトルから内容の大枠(森)を作ることで、ディテール(木)をどういう文脈で捉えるべきなのかというマインドマップが自然と形成されるからです。

例えば「Ist Kaffee schädlich oder gesund?」という大見出しがあったとしたら、本文はどういう主旨だと考えられますか?

人によってコーヒーの身体・健康への影響に関する知識量は異なるとは思いますが、コーヒーを飲み過ぎれば眠れなくなるとか、飲むと目が覚めるとか、それくらいのことはどなたでもご存じかと思います。血圧が上がるとか、カフェイン中毒の存在も知っていれば、テキスト理解に有利でしょう。

このようにタイトルから自分の持っている知識を呼び覚まし、関連するキーワード(munter/aktiv machen, Koffein, Koffeinsucht, Blutdruck ...)などを知っている限り思い浮かべておくわけです。

連想によるマインドマップがアクティブになった状態で精読を始めると、テキスト理解のとっかかりがつけやすくなり、知らないドイツ語の単語が出てきても、その意味を類推しやすくなります。

読む際には、段落ごとに一度止まって考えるようにします。その段落で一番重要な情報・事柄は何かを考えて、その部分に下線を引くといいでしょう。

先述の「Ist Kaffee schädlich oder gesund?」の本文の第一段落は以下の通りです。

"C-A-F-F-E-E, trink nicht so viel Caffee" ...

... so lautet ein altes Lied, das vor den Gefahren des Kaffees warnen sollte. Ist aber Kaffee tatsächlich so gefährlich? In Zeitschriften liest man oft negative Artikel über Kaffee: "Kaffee macht müde", "Kafee macht krank", aber auch positive: "Kaffee macht munter", "Kaffee macht schön". Was davon richtig ist, darüber streiten sich die Experten.

あなたならどこに下線を引きますか?

「liest man oft negative Artikel über Kaffee」「aber auch positive」プラス「Was davon richtig ist, darüber streiten sich die Experten.」といったところでしょう。

この部分に関する質問は3つの選択肢から正しいものを選ぶようになっています。

Man kann über Kaffee ...

a. meistens nur negative Nachrichten lesen.

b. sowohl gute als auch schlechte Nachrichten lesen.

c. viele Lieder hören.

下線を引いた部分に出てきたキーワードで、「negativ = schlecht」と「positiv = gut」が分かっていれば答えは自明のはずです。

ちなみにこの問題はA2の模擬試験からの借用です。

語学学校に通っていれば、授業でテキストを読み、その内容に関する質問に答えるという訓練をすることもありますが、毎日4時間の集中コースでもない限り、授業だけでは勉強不足です。試験を受けるつもりがあるのでしたら、日頃から様々なテキストに触れている必要があります。

精読の練習は手間がかかりますので、週一回程度、週末にでも時間を取って練習するのがいいでしょう。

手順は以下の通りです。

  1. タイトルから内容を想像し、マインドマップを作る

  2. 1段落読む

  3. その段落の重要箇所に下線を引く

  4. (B1以上)段落の主旨を自分の言葉でまとめる(言い換える)

  5. 2と3(B1以上では4も)を繰り返す。

教科書や問題集を使えば、解答があるので安心かもしれませんが、B1以上ではドイツ語のニュースやブログ記事などの生のテキストを利用することをお勧めします。

一言一句正確に理解する必要はないのです。

けれども、どうしても引っ掛かる言い回しや文の構造が理解できないことがありましたら「いつでもドイツ語一問一答サービス」をお気軽にご利用ください。

Viel Spaß und gutes Gelingen beim Lesen!

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