人差し指で人を指す mit dem Zeigefinger auf jemanden zeigen
日本語の「人差し指」は「ひとさしのおゆび」から来ており、その名が示すようにまさに人を指すための指なのですが、一般にこの行為は失礼とされています。
ドイツ語の Zeigefinger は「指し示す指」で、名称からはその対象が制限されていません。それでも、ドイツでもこの指で人を指すのは特に公共の場では子どもっぽく、一般に失礼と見なされます。
しかし、この指で何かを指すのはほぼ人間の本能と言えます。というのは生後6・7か月の赤ちゃんがすでに人差し指で興味のあるものを指し始めるからです。概ね「これなあに?」とか「これ知ってる」などというニュアンスのようです。
特に人差し指で人を指す仕草は、古代において「力の伝達 Kraftübertragung」を意味し、生命力のような力が人差し指を通じて差された人に移行すると考えられていました。このため、人差し指はラテン語で digitus salutaris(健康によい、病気を治す指)とも呼ばれていました。この力の伝達を表す代表的な芸術作品はシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロの天井画『アダムの創造』です。作られたアダムに人差し指を介して生命力が吹き込まれているシーンですね。
人差し指で人を指すことがタブー視されるようになったのは、人を指す、特に病人や苦しんでいる人を指すことで、その人の苦しみを自分に惹きつけてしまうと信じられていたため、とも言われています。
子どもには「それによって天使を刺し殺してしまうから」と言って、このほとんど本能的な仕草を止めさせようとするようです。
自分を指すジェスチャー auf sich zeigen
自分を指すジェスチャーには文化的な違いが表れるものです。
日本では通常人差し指で自分の鼻を指すのに対して、ドイツでは一般的に人差し指で心臓のあたりまたはお腹を指します。
もちろん「親指」の記事で言及したように親指で自分を指すことは日独両方に見られますが、どちらもさほど一般的ではありません。
ちなみに日本の人差し指で自分の鼻を指すジェスチャーは、イタリアでは「何かおかしい、怪しい」という意味になります。
ドイツでは、人差し指を垂直に立てて自分の鼻につける(Senkrecht ausgestreckten Zeigefinger an die Nase legen)と、「考え中である」ことを示します。このため、日本人の自分を指すジェスチャーは何を考えているのかと誤解される可能性もあります。
余談ですが、アメリカでは一般的に手の平を胸に当てて自分を指すことが多いです。ドイツでは、このジェスチャーに似ている動作があり、手を心臓にあてる「Hand aufs Herz」と言います。テレビドラマのタイトルにもなった慣用句ですが、元は誓いを立てるときのジェスチャーで、現在では「真実を言え」「正直に白状しろ」という意味で使われます。
その他の人差し指ジェスチャー
「お静かに」
人差し指を上に向けて立て、口の上に乗せるようなジェスチャーは日独共通です。日本ではその際に「しー!」と言い添えることが多いですが、ドイツでは「Psst!」となります。
「言いたいことがある」、注意喚起
日本では教室や会議などで何か発言したい場合、手を挙げますが、ドイツでは手を挙げるのではなく、人差し指を伸ばした手を胸の高さまたは頭の高さまで持っていきます。
発言中にこの動作をすると、聞き手の注意を喚起し、今話していることが重要であることを示します。
このジェスチャーは、ローマ帝国では、一般的な挨拶でした。
「(おまえ/あいつは)頭がおかしい」
人差し指の先で額またはこめかみをトントンと叩くジェスチャー(mit dem Zeigefinger an die Stirn oder Schläfe tippen)は、一般に「Jemandem einen Vogel zeigen(誰かに鳥を示す」と呼ばれ、差された誰かが「einen Vogel haben(鳥を持っている)=頭がおかしい」ことを暗示する侮辱的ジェスチャーです。
なぜここでいきなり「Vogel 鳥」が出て来るのでしょうか? これは、「鳥が頭の中に巣食うと精神異常をきたす」という古い迷信に基づいています。
また、手の平を顔に向けて左右に振ることで「頭がおかしい」を表すこともできます。
「おえ~」「吐き気がする」
人差し指を開けた口の中に突っ込みます(den Zeigefinger in den geöffneten Mund stecken)。
本来は誤って口に入れてしまった毒や異物などを吐くためにする動作ですが、その真似をすることで、あるものや人が吐き気を催すものであることを示します。
「首切り(Halsabschneider)」
人差し指で首を切るような動作をすることを Halsabschneider と呼び、「jemanden einen Kopf kürzer machen(ある人を頭1つ分短くする=首を切る、罰する、懲戒免職する)」という慣用句とともに使われることがあります。本当に殺人予告を意味することは通常はまずないと思いますが、暴力的なシーンでは殺人を意味することもあるようです。
親指と人差し指のジェスチャー
「親指」の記事では言及しませんでしたが、ドイツでは数を数える際に、親指を立てて「1」を表し、さらに人差し指を立てることで「2」を表します。さらに中指、薬指、小指を順番に立てて「3,4,5」を表します。
日本では人差し指を立てて「1」、さらに中指を立てて「2」を表し、順番に小指まで立てて、最後に親指を立てるのとは対照的ですね。
「5」だけは同じですが、ドイツでは親指からスタートし、日本では親指で終わるわけです。
親指と人差し指で輪を作る「オーケーサイン」については「親指」の記事でご紹介しましたが、親指と人差し指以外の指を伸ばさずに曲げた状態にして、親指と人差し指を擦り合わせるようにすると、お金を表すジェスチャーになります。レストランなどでお勘定を頼むときにこのようなジェスチャーをすることがあります。
会話の中でも、「お金・先立つものが…」などと言いながらこのジェスチャーを添えることも少なくありません。
これは、元々は紙幣を数える動作から来ています。
動画版はこちら。
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