【ドイツ語ニュース解説】ドイツでベーシックインカム実験始まる、って実際どういうこと?

8月21日のビジネスインサイダー日本語版で報道された「ドイツでベーシックインカム実験始まる…3年間、毎月15万円を支給。イギリスなどでも議論がスタート」などを始めとする関連記事をもとにYouTubeでもそのテーマに関する動画がいくつか上がってましたが、ドイツで行われる実験そのものに関することは、「120人が3年間、毎月15万円」という情報いがいほとんど知られていないか、誤解に基づく憶測や、そこから「日本も~」と議論を発展させてるようでした。なので、ここでは、ドイツの実験そのものについて、ドイツ語のソースをもとに解説していきます。



まず、ベーシックインカムですが、これはドイツ語では Grundeinkommen と言います。Grund は「基礎」や「基本」「土台」などの意味があり、Einkommen は字義通りには「入って来るもの」を意味し、一般には「所得」「収入」を表します。Grundeinkommen とは、要するに「基礎所得」です。

この Grundeinkommen は、この度の実験の学術研究を実施するドイツ経済研究所 Deutsches Institut für Wirtschaftsforschung では、以下のように定義されています。


Als Grundeinkommen wird ein existenzsicherndes Einkommen bezeichnet, auf das entweder alle oder nur bestimmte Gruppen in der Bevölkerung ein Anrecht haben, wenn das Einkommen nicht ausreicht. Damit soll die gesellschaftliche Teilhabe der Betroffenen verbessert werden.("Grundeinkommen")


基礎所得と呼ばれるのは、住民全員または特定のグループが、所得が足りない場合に受け取る権利のある、生存を保障する(最低限度の生活を保障する)所得である。これにより、該当者の社会生活への参加が改善されることを目的としている。


この定義で、注目していただきたいのは、「wenn das Einkommen nicht ausreicht 所得が足りない場合に」の部分です。お分かりでしょうか?これ、すでに日本でもドイツでも存在してますよね?そうです。「生活保護」がこれに当たります。ドイツでは、就労が可能な人は「Hartz IV ハルツ4」と俗に呼ばれる第二種失業手当、就労が不可能な人は「Sozialhilfe 生活保護」を受給できます。


今回実験の対象となっているのは、もちろんこの基礎所得ではありません。記事の見出しでは省略されてしまってますが、正確には「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」が研究対象なわけです。


この UBI は、ドイツ語では「bedingungsloses Grundeinkommen 無条件基礎所得」と言います。

Ein steuerfinanziertes bedingungsloses Grundeinkommen wäre unabhängig von der wirtschaftlichen Lage einer Person und nicht an die Ausübung einer Tätigkeit gekoppelt.


税金によって賄われる無条件基礎所得は、各人の経済状況いかんにかかわらず、また、ある行為を行う条件とも結びつけられていない。


つまり、お金に困ってなくても、特に公共のために、たとえば公園の清掃等の労働をしなくても、誰でも定期的に受給できる所得なわけです。さすがにこれは、まだどこにも制度としては存在していません。

コロナ禍の影響で失業者が増加し、その人たちの救済のために、ある種のベーシックインカムを導入する国、または導入を検討する国が出てきてはいますが、厳密な意味での UBI ではありません。英語の「ユニバーサル」だとまだ解釈の余地がありますが、ドイツ語ですと「無条件所得」ですから、そこに解釈の余地はありません。Bedingungslos 無条件は無効件、すなわち、いかなる Bedingung 条件も受給のために設定されてはならないわけです。


この度、ドイツ経済研究所が実施することになった「Pilotprojekt Grundeinkommen 試験的プロジェクト・基礎所得」では、多少の条件があります。まず、満18歳以上であることとドイツ在住であることの他、オンライン質問票に回答することや、プロジェクトの本来のイニシエーターである Mein Grundeinkommen という団体から基礎所得を受給したことがないことが条件となっています。


日本では、この実験、つまりベーシックインカムの120人への支給が始まっているかのように誤解されているようですが、実はまだ参加者募集中で、11月10日まで応募できます。プロジェクトチームの当初の目標は3か月で100万人の応募者を集めることだったのですが、告知後わずか3日でこの目標は達成されてしまいました。

本日9月9日15:23(中央ヨーロッパ時間)時点で取ったスクリーンショットが下になりますが、その時点での応募数は1,874,633件でした。もちろんまだ増え続けています。


応募者数の隣にある「122」という数字が何を表しているかと言うと、このプロジェクトの個人サポーター148,950人の寄付金によってカバーされている基礎所得受給者数です。寄付金が増えれば、受給可能な人数も増えるシステムです。

ここがもう一つ誤解されている点なのですが、このプロジェクトにドイツ政府は一切関与していないんです。120人に3年間支給される基礎所得は、クラウンドファンディングを介してプロジェクトをサポートする個人篤志家が出資してるんです。


クラウンドファンディング方式は、イニシエーターである慈善団体 Mein Grundeinkommen が2014年から実施してきたものです。これまでに 800万ユーロ(約1億円)の寄付を集め、650人以上に毎月1000ユーロ、1年間基礎所得が支給されました。現在でもそれは継続しており、次の抽選は11月18日19時(中央ヨーロッパ時間)に行われます。

この団体のこれまでの経験では、基礎所得の受給者で怠け者になった人はいないということなのですが、比較グループもなく、また、小規模の細々とした活動でもあったため、国家的な導入を検討するデータが提供できないという弱味がありました。このため、先述のドイツ経済研究所に学術的研究の実施を打診し、その結果、「Pilotprojekt Grundeinkommen 試験的プロジェクト・基礎所得」が実現しました。ドイツ経済研究所の他、マックスプランク研究所とケルン大学がこのプロジェクトに参画しています。


以下にざっとプロジェクトの流れをご紹介します。


プロジェクトの流れ(Der Ablauf

第1期:参加者募集。2020年11月10日締め切り。2020年11月17日までに第1選考の合否結果をメールで通知。

第2期:第2選考。データの特性から、学術的研究対象に適したグループを選択。このグループをドイツ連邦統計局のデータと比較。その結果、2万人が最初のアンケート調査対象に選ばれ、調査が実施される。期間は2か月。

第3期:120人の基礎所得受給者と、1380人の比較グループをランダム選択。

第4期:2021年春、支給開始、研究プロジェクト開始。プロジェクト期間中6か月ごとにオンラインアンケート調査。一部の参加者には詳細インタビューとストレスレベル分析のための毛髪採取を実施。

なお、支給される基礎所得は非課税 (nicht steuerpflichtig)。




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