Mikako Hayashi-Husel
2023年3月7日5 分
前綴り〈be-〉を持つ動詞は数多いですが、前綴り〈be-〉自体の意味を捉えるのは容易ではありません。一般には次の働きがあるとされています。
他動詞化
付帯/付与
特殊化
順番に見ていきましょう。
前綴り〈be-〉には、自動詞を他動詞にする働きがあります。元動詞と似ているために区別がしにくいことがありますが、結合価(Valenz)が異なるので要注意です。
ここでは頻出動詞を取り上げて、その違いを解説します。
auf die Regeln achten 規則(に留意して)を守る (注意する対象を表す前置詞句 auf が必要)
die Regeln beachten 規則を守る(守る対象を対格目的語とする)
jemandem/auf eine Frage antworten 人に/質問に答える(答えを受け取る人を与格目的語とするか、または答える対象を表す前置詞句 auf が必要)
eine Frage beantworten 質問に答える (答える対象を対格目的語とする)
jemandem (für etwas) danken 人に(~のことで)感謝する
sich bei jemandem (für etwas) bedanken 人に(~のことで)感謝する(再帰代名詞が対格目的語)
他動詞を通り越して再帰動詞になっています。感謝を受ける人は bei の前置詞句で表します。
sich äußern (自分の意見・気持ちを表明する)と同じパターンで、sich bedanken は「自分の感謝の意を表明する」が原義。
jemandem drohen 人を脅す、脅迫する、威嚇する(または与格目的語なしで「(危険などが)差し迫る」)
jemanden bedrohen 人を脅す、脅迫する、威嚇する、おびやかす(脅かされる対象を対格目的語とする)
auf einer Straße fahren 通りを(車などで)通る (通る場所は前置詞句 auf +与格で表す)
eine Straße befahren 通りを(車などで)通る (通る場所を対格目的語とする)
auf dem Fußweg gehen 歩道を歩く(歩く場所は前置詞句 auf +与格で表す)
den Fußweg begehen 歩道を歩く(歩く場所を対格目的語とする)
注:begehen には「(催しなどを)行う」や「(犯罪を)犯す)」という比喩的な意味もあります。
gegen etwas/jemanden kämpfen ~と戦う(戦う対象は前置詞句 gegen で表す)
etwas/jemanden bekämpfen ~と戦う(戦う対象を対格目的語とする)
jemandem etwas liefern 人に何かを届ける、配達・配送する、納品する、納入する(与格と対格目的語が必要)
jemanden (mit etwas) beliefern 人に(何かを)供給・提供する、引き渡す(受取人を対格目的語とする。引き渡される対象は重要ではない)
über etwas reden/sprechen 何かについて話す、話し合う(話題を表す前置詞句が必要)
etwas bereden/besprechen 何かについて話し合う(話題は対格目的語とする)
auf das Spielfeld treten 競技場に入る、足を踏み入れる(入る場所を表す前置詞句 auf または in +対格が必要)
das Spielfeld betreten 競技場に入る、足を踏み入れる(入る場所を対格目的語とする)
in einem Haus wohnen 1つの家に住む(場所を表す前置詞句が必要)
ein Haus bewohnen 1つの家に住む、1つの家を住まいとする(住む場所を対格目的語とする)
an seiner Ehrlichkeit zweifeln 彼の誠実さを疑う(疑いの対象を表す前置詞句 an + 与格が必要)
seine Ehrlichkeit bezweifeln 彼の誠実さを疑う (疑いの対象を対格目的語とする)
名詞から派生した前綴り〈be-〉のある他動詞は、何かに元の名詞の表す物を「つける」という意味になります。この場合、付けられる対象が対格目的語となります。
etwas beabsichtigen ~を意図する、計画する
jemanden mit etwas beauftragen 人に何かを依頼・委託する(依頼の対象は前置詞句 mit +与格で表し、請負人を対格目的語とする)
jemanden beeindrucken 人に強い印象・感銘を与える(感銘を受ける人を対格目的語とする)
etwas/jemanden beeinflussen ~に影響を与える(影響を受ける対象を対格目的語とする)
etwas begründen 何かの基礎を打ち立てる;何かの根拠・理由をつける・述べる
jemanden (mit einer Hose) bekleiden 人に衣類を(ズボンを)着せる(着せられる人が対格目的語であることに注意!)
今日では裁判官くらいしか役職に特別な服装がありませんが、昔はどの官職にも独自の服装があったため、「jemanden mit [einem Amt] bekleiden」で「人を[官職]につける」という用法もあります。
Schuhe besohlen 靴に靴底をつける(靴底を付けられる対象を対格目的語とする)
Kartons beschriften 段ボール箱に(内容説明などの)文字を記す(文字を記される対象を対格目的語とする)
die Anschaffung einer Solaranlage bezuschussen 太陽光発電システムの購入を助成する、購入に対して補助金を支給する(補助対象を対格目的語とする)
前綴り〈be-〉は元の動詞の意味を狭めたり、特殊な意味を付与したりする働きがあります。
etwas bearbeiten 処理・加工・編集する
etwas bedenken ~を熟慮する、考慮に入れる
jemanden mit etwas befassen 人を何かに従事させる、委託する
sich mit etwas befassen ~に従事する、取り組む
元は、「手でつかみ取る」「占有する」という意味でしたが、その後「固定する」という意味も加わり、それが転じて「人を特定の仕事に固定する」すなわち「従事させる」となったようです。
etwas begreifen ~を理解する、把握する
「掴む」「握る」の意味が〈be-〉をつけ他動詞では抽象的な意味になっています。
jemanden/etwas begrüßen 人/何かを歓迎する
grüßen 自体にも「歓迎する」意味はありますが、begrüßen にはその意味しかありません。
etwas bekommen 何かを得る
元は、何かがある人の元へ運ばれて来ることを指していたと思われます。
jemanden/einen Ort besuchen 人/場所を訪ねる、訪問する
「目的地を探して、そこへ行く」というのが原義。
etwas bewirken ~を結果としてもたらす、生じさせる、引き起こす
前綴り〈be-〉の動詞は、基本的に他動詞で、稀に sich bedanken のように再帰動詞もあります。前綴り〈be-〉の主な働きは、自動詞の他動詞化(意味の変化ほぼなし)、名詞からの派生で付帯・付与を表す、動詞の意味の特殊化です。
他にも今一つ説明できないような派生語が多くありますが、いずれも直接目的語を必要とする他動詞か再帰動詞のいずれかです。
唯一と言っていい例外は与格目的語を取る jemandem/etwas (D.) begegnen (~に出会う、遭う、対処する)です。前置詞 gegen(~に対する)からの派生語です。
単語の派生関係を知ることで、単語の理解を深め、語彙を増やすという方法は、割と標準的な語彙の増やし方の一つですが、その際にそれぞれの動詞の持つ結合価はついつい疎かにしてしまいがちです。きちんと使いこなすためには、何を与格または対格目的語とするのか、あるいはどのような前置詞句を取るのかをしっかりと押さえる必要があります。とはいえ、これは上級者向けの課題です。皆さんも上級者を目指して頑張りましょう!🤗