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「読む」をドイツ語で考える

更新日:2020年6月7日

今回のテーマは「読む lesen」です。


私は活字中毒 die Lesesucht で、わずかな隙間時間でも何かしら読んで時間をつぶすので、読むことが私の人生の大半を占めていると言っても過言ではありません。自室には壁2面いっぱいに本棚が並び小説・マンガも含めておよそ3000冊ほど所狭しと詰まってますが、実はここ12・3年ほど紙書籍はそれほど増えてはいません。今はデジタル化が進み、一般的な書籍であればなんでも電子書籍として読めるようになっているため、場所の節約ばかりでなく、注文してすぐに読めるという利点から、電子書籍を大人買いしまくり、電子書棚にはすでに4500冊くらい収まってます。PCで読むときもありますが、大抵はタブレット端末で読んでます。ちなみに電子書籍を読むための端末は das Lesegerät と言います。マーケティング的には「eReader」とすることもありますが、ドイツ人にとっては字義通り「読む端末」を意味する Lesegerät の方が納得できる簡単な言葉であることには変わりがありません。


「読む」とは

ドイツ語の lesen の原義は「集める」「選んで収穫する」で、die Lese は「読むこと」ではなく、「(ブドウの)収穫」「(キイチゴなどの)摘み」「(落穂)拾い」を意味します。

Auslese と言えば選び抜かれたブドウで作ったワインを指すこともあれば、「厳選すること」自体を表すこともあります。Spätlese はブドウの遅摘み、または遅摘みされたブドウで造られた上等のワインを指します。

ドイツ語の「読む lesen」の本来のイメージは「字を拾い集める」という感じですね。


それに対して、日本語の「読む」の原義は「数を数える」で、今でも「票を読む」や「秒読み」という表現にその意味が残っています。いずれにせよ、本来は「声に出す」イメージですね。だから、例えば学校の授業で「~ページの~から読め」と先生に指されたら、指定の場所を声を出して読むわけです。

ちなみにドイツ語では、ただ声を出して読む場合は laut lesen と言い、人前で読み上げるような場合は vorlesen と言います。これを名詞化すると die Vorlesung となり、「講義」を意味します。


「読む」を使った慣用句

読むと言って最初に思い浮かぶのは、das Buch/die Bücher 本や die Zeitung/die Zeitungen 新聞、die Zeitschrift/die Zeitschriften 雑誌でしょうか。

他には(Akkusativ、4格):

den Buchstaben/die Buchstaben 文字

den Brief/die Briefe 手紙

das Schreiben/die Schreiben 書簡、書状

die Schrift/die Schriften 書かれたもの、著書、文書

die E-Mail/die E-Mails イーメール

den Text/die Texte テキスト

den Artikel/die Artikeln 論文、記事

das Blog/die Blogs ブログ

などですね。


とにかく「たくさん読む」は viel lesen です。


den Text lesen には、「誰それに」という間接目的語(Dativ、3格・与格)を伴って、「お説教をする」という比喩的な意味もあります。

例:Jeden Abend kommt der Junge später nach Hause. Du solltest ihm einmal ordentlich den Text lesen! あの(男の)子は毎晩遅くに帰って来る。君は一度彼にちゃんとお説教をすべきだよ!

この場合のテキストとは、神父さんの説教の元となる聖書の章句を指しています。つまり jemandem den Text lesen とは、「聖書の章句を誰かに読み聞かせる」が原意ですので、日本語の「お説教をする」、つまり「口頭で教えを説き明かす」にかなり近い表現ですね。


den Text の代わりに die Leviten とすると、「厳しく叱責する」という意味になります。この Leviten は旧約聖書モーセ五書の3番目の書『レビ記(Leviticus)』を指しています。この表現の歴史は古く、紀元後8世紀まで遡れ、当時のベネディクト会修道士たちが修道院で悔い改めの礼拝をおこなう際に、司祭の行動規範を多く含む『レビ記』が読み上げられたことに由来します。


文字以外のものでも読むことができますね。

たとえば、文章に書かれていない書き手の真意を読み取ることを「行間を読む」と言いますが、ドイツ語にも同じ表現があり、zwischen den Zeilen lesen と言います。

これは、人の「思考を読む」ことでもありますよね。「お前の考えは読めてる」なんて言うことがあると思いますが、これもドイツ語に同じ表現があり、Gedanken lesen と言います。「お前の考えは読めてる」なら Ich kann deine Gedanken lesen です。


たくさん読む人

本などをたくさん読む人を表す言葉には「読書家」「多読家」「本の虫」「本喰い虫」「紙魚」などがありますが、ドイツ語にも相応する表現が多くあります。


der Vielleser/die Vielleserin は字義通りに「多読家」を意味します。


「本の虫」「本喰い虫」という表現は、「紙魚(しみ)」という書籍や古文書を食害する昆虫に由来しています。

「魚」の字をあてるのは、この虫が銀色の鱗をまとっているように見えることと、素早く動くさまが魚のように見えることから来ているようです。「紙の上を泳ぐ魚」ということですね。ドイツ語では das Silberfischchen(銀の小魚)と言います。

好物は本の装丁などに使われる糊や膠、砂糖、など多糖類やでんぷんを多く含む物質です。紙の表面を舐めるように削っていきます。

穿孔食害と呼ばれる穴をあけてトンネルのように食べていくのはこの紙魚の仕業ではなく、死番虫と呼ばれる虫だそうです。これも、「本の虫」「本喰い虫」ですね。


さて、ドイツ語でも der Bücherwurm「本の虫」という言い方をしますが、これは紙魚 Silberfischchen のことではなく、Brotkäfer(パンの甲虫) 人参死番虫(ジンサンシバンムシ)のことを指しています。der Bücherwurm「本の虫」は、比喩的に「たくさん読む人」を意味しますが、これは、本をたくさん読む人が往々にして本を食べんばかりに顔を近づけて読むことから来ているようです。この比喩の文学における初出は、レッシングの1747年の喜劇作品「Der junge Gelehrte(若き学者)」だそうです。


他に、der Lesewurm「読む虫」という言い方もします。こちらは、Bücherwurm のバリエーションとして発生した言葉のようです。


また、die Leseratte「読むドブネズミ」という表現もあります。これは、19世紀から使われるようになった、比較的新しい表現です。Ratte(ドブネズミ)は強欲を連想させるため、ネガティブな意味合いです。貪欲に読み漁り、するべきこともしないなどという非難が言外に含まれています。


本が好きな人

本が好きな人を表す「本好き」「愛書家」に相当するドイツ語ももちろんあります。

愛書家に相当するのは der/die Bibliophile です。これは、ギリシャ語の βιβλίον biblíon 「本」と φίλος philos 「友、愛」から成る造語です。形容詞は bibliophil。

ギリシャ語の biblíon は、die Bibel「聖書」の語源であり、また、die Bibliothek「図書館」という言葉の中にも入っています。

philos は、Philosophie 「哲学」< philos 「愛」+ sophia 「知」や、Philadelphia フィラデルフィア< philos 「愛」+ adelphos「兄弟」などにも含まれています。


この書物愛好も度が過ぎると蔵書狂 der Bibliomane といい、病的な書籍収集欲は die Bibliomanie というようにギリシャ語の μανία maníā 「狂乱」を語源とする -mane/manie を付けます。

日本語では「マニア」「マニアック」として知られている言葉です。Bibliomanie とは字義通りには「本マニア」「本狂い」ですね。

実際世の中には「読むこと」ではなく、本・書籍そのものに並々ならぬこだわりを持つ方がいるようです。私自身は個人的にそういう方にお目にかかったことはないのですが、三上延(みかみ・えん)という作家の「ビブリア古書堂の事件手帖」というシリーズではそういう方々が登場してドラマが展開していきますね。実は大ファンです。もし、本やミステリーがお好きでしたら、ぜひ読んでみてください。


この記事の動画版はこちら。


【動画内容】 「読む」とは 5:44

lesen を使った慣用句 10:10

たくさん読む人を表す言葉 16:56

本が好きな人を表す言葉 22:37


文法の復習

最後に動詞 lesen の文法的復習をしておきましょう。


現在形 ich lese, du liest, er liest, wir lesen, ihr lest, sie lesen

過去形 ich las, du lasest, er las, wir lasen, ihr last, sie lasen

現在完了 ich habe gelesen.

以上のように「読む lesen」は強変化動詞です。


読む人・読者は、行為者を表す語尾 -er をつけて、der Leser/ die Leserin となります。









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