ドイツ・ 新型コロナ 1日の死者数最多を受けてのメルケル首相スピーチ(2020/12/09)の書き起こし+翻訳+解説

最終更新: 2020年12月17日

2020年12月9日にドイツ連邦議会予算審議において、メルケル首相が演説の終盤に行った珍しく感情的に「新型コロナ 1日の死者数最多590人を受けて、より厳しい措置を徹底すべきだ」と訴えたスピーチが話題になっています。

実は、内容的にはほぼ同じことを9月にも議会で発言しているのですが、この時は彼女は用意したスピーチ原稿を見ながら話しただけだったのです。12月9日のスピーチは全体で35分間に及びますが、動画の31:36 から原稿を見ずに思ったことをそのまま話し、途中で声が震えたり、詰まったりと感情の高ぶりが現れています。また、議会に居ながら国民全体にメッセージを向けていたと見れます。

その最後の3分半をカットしたものが下です。シーケンス編集はしていません。

以下に書き起こしと少々の解説と翻訳を記します。

動画の字幕とはやや翻訳が異なる部分があります。字幕ではなるべくドイツ語の内容と日本語字幕がシンクロするように順番を一部変えてあります。


【原文】

1. Und Ich sage Ihnen, was mir jetzt sorgen macht und darüber müssen wir in den nächsten Tagen sehr schnell sprechen. Das ist die Entwicklung im Augenblick: 3500 Fälle mehr als vor einer Woche. Ich weiß, dass wir Bundesländer haben wie Sachsen, Thüringen, Brandenburg, Sachsen-Anhalt, in denen wir einen ziemlich freien Anstieg der Fälle haben. Aber selbst wenn wir die rausrechnen, haben wir immer noch Anstiege. Und bis Weihnachten sind es noch 14 Tage genau von heute, 14 Tage! Wir müssen alles tun, dass wir nicht wieder in ein exponentielles Wachstum kommen.


【日本語訳】

1. それで、私が今何を心配しているのか言わせてください。そのことについては近日中に早急に話し合う必要があります。それは現在のコロナ感染状況です。1週間前よりも3500件増加しています。今急激に感染拡大しているザクセン、チューリンゲン、ブランデンブルク、ザクセン・アンハルトなどの州があることは承知しています。しかし、そうした州を除外したとしてもまだ感染数は増加しているのです。クリスマスまで今日からちょうど14日あります。14日です!私たちは、また指数関数的な感染拡大にならないように、あらゆる対策を講じる必要があります。


【解説】

die Entwicklung im Augenblick:「この瞬間の動向」としか言っていませんが、コロナのことを言っているのは明らかなので「コロナ感染状況」と訳しました。

Anstiege: 「増加」が複数になっているのは、各州での増加傾向あるいは、日々1週間前の数字と比べて報告されている「増加」を指しているためだと思われます。

in ein exponentielles Wachstum kommen:字義通りには「指数関数的な増大をする」という意味ですが、コロナ感染が倍々に拡大していた10月の状況が繰り返されることを指しています。


【原文】

2. Nun hat uns die Leopoldina für diese Zeit gesagt, wir sollen alle Kontakte, die nicht absolut notwendig sind, wirklich reduzieren und meiden. Und so hart auch das ist und ich weiß, wie viel Liebe dahintersteckt, wenn Glühweinstände aufgebaut werden, wenn Waffelbäckereien aufgebaut werden. Es verträgt sich nicht mit der (…mit dem …) Vereinbarung, dass wir zum Beispiel Essen und Verzehr nur zum Mitnehmen nach Hause wirklich vereinbart haben. Es tut mir leid, aber es tut mir wirklich vom Herzen leid. Aber wenn wir dafür den Preis zahlen, dass wir Todeszahl von Tag am Tag 590 Menschen haben, dann ist das nicht akzeptabel aus meiner Sicht. Deshalb müssen wir da ran.


【日本語訳】

2. 今、国立科学アカデミー・レオポルディーナが、このクリスマスまでの期間に絶対的に必要というわけではないすべての接触を本当に減らして回避するべきだと進言しました。それがどんなに辛いことか、それに、グリューワインのスタンドが立てられたり、ワッフルのスタンドが立てられたりする背景にどれだけの愛情がこもっているのか、私は知っています。でも、それは、私たちがたとえば、食べ物、飲食は家に持ち帰るテイクアウトだけと取り決めた合意とはつじつまが合わないのです。申し訳ありません、本当に心から申し訳ないと思います。けれども、そのために日々590人の死者数を出すという代償を払うのであれば、そのようなことは私から見て容認できるものではありません。だからこそ、私たちは何らかの措置を講じる必要があるのです。


【解説】

mit der (…mit dem …) Vereinbarung, dass [….] vereinbart haben:メルケル首相が言い淀み、文が少し破綻した感じのところです。「~と取り決めた合意」という日本語訳も原語ほどではないにせよやや重複している感じが否めませんが、原語では同じ動詞の名詞形と現在完了が重なっているために、もっと冗長な印象があります。

Deshalb müssen wir da ran:この部分は、一部の動画では 「… da handeln」と字幕が付いていたのですが、実際にはそうは言っていません。飲み込まれてしまっていてはっきりとは聞き取れないのですが、「ran」が一番音的にも意味的にも適合していると言えます。


【原文】

3. Und wenn die Wissenschaft uns geradezu anfleht, vor Weihnachten, bevor man Oma und Opa und Großeltern und ältere Menschen sieht, eine Woche der Kontaktreduzierung zu ermöglichen, dann sollten wir vielleicht doch nochmal nachdrängen, ob wir nicht irgendeinen Weg finden, die Ferien nicht erst am 19. beginnen zu lassen, sondern vielleicht schon am 16. Was wird man im Rückblick auf ein Jahrhundertereignis mal sagen, wenn wir nicht in der Lage waren, für diese 3 Tage doch irgendeine Lösung zu finden?


【日本語訳】

3. また、学者の方々が、クリスマス前に、おじいちゃんおばあちゃん、祖父母、お年寄りの方に会う前に、1週間の接触制限を実現するよう私たちにほとんど懇願するように進言するのであれば、やはり、冬期休暇を12月19日ではなく、たとえば16日に早めるなどのようななんらかの手段をもう一度検討すべきなのではないでしょうか。今世紀最大と言えるような出来事を振り返ってみるとき、私たちがこの3日間(12/24から12/26まで)のために何らかの解決策を見い出すことができなかったとしたら、どう言われることでしょうか。


【解説】

die Wissenschaft:「学問」ではなく、ここでは集合的に学者を指しています。

nachdrängen:この部分は、一部の動画では 「nachdenken」と字幕が付いていましたが、実際には「nachdrängen」と言っています。本来は「何かを押しのけて場所を作る」という意味です。学校教育は州の管轄なので、連邦政府は介入することができず、各州首相と折り合いがつけられなかったメルケル首相の苦々しさがここに現れていると言えます。つまり、彼女としては管轄外でも強権発動して学校閉鎖に踏み切らせたいという願望がつい言葉に出てしまったという感じでしょうか。

ein Jahrhundertereignis:定冠詞das があれば「今世紀最大の出来事」ですが、不定冠詞なので「今世紀最大と言えるような」とすることで不確定性を表現しました。

wenn wir nicht in der Lage waren:主文のWas wird man … sagen? の時制よりも前であることを表すために過去形が使われています。未来視点で語られています。


【原文】

4. Das mag ja sein, - das mag ja sein, dass die Aufhebung der Schulpflicht das Falsche ist; dann muss der Digitalunterricht oder sonst was sein. Ich weiß es nicht; das ist auch nicht meine Kompetenz. Da will ich mich nicht einmischen. Ich will nur sagen: wenn wir jetzt vor Weihnachten zu viele Kontakte haben und anschließend es das letzte Weihnachten mit den Großeltern war, dann werden wir etwas versäumt haben. Das sollten wir nicht tun, meine Damen und Herren!


【日本語訳】

4. もしかしたら、--もしかしたら、就学義務を一時的に解除することは間違っているのかもしれません。もしそうなら、デジタル(リモート)授業など、何かを行う必要があるでしょう。私には分かりませんし、それは私の管轄でもありません。そこに私は介入するつもりはありません。ただ、私が申し上げたいのは、私たちが今クリスマス前に人との接触を多く持ちすぎて、それが祖父母との最後のクリスマスになってしまったのだとしたら、私たちは何かを怠ったことになるのだということです。そういう事態は避けるべきでしょう、連邦議員の皆さん!


【解説】

das ist auch nicht meine Kompetenz:これを「私は専門家ではない」や「それは私の専門ではない」というふうに翻訳されているものをネットで見かけましたが、ここでは政治的な管轄を指しています。前段で述べたように学校教育は各州の管轄であるため、連邦政府が介入することは憲法上不可能です。だから、このすぐ後に「介入するつもりはない」と明言しているのです。そうでないとまた各州首相に「自分たちの領域を犯すな」といった不平不満が出ることが予想されるからです。

wenn … haben und … war: 同じ副文内で2つの異なる時制があるのは少々解釈が難しいですが、現在形 haben で表されている内容は現実味のある前提であるのに対して、war で表されている内容は非現実の仮定にすぎません。主文 dann werden wir etwas versäumt haben の未来完了 Futur II の視点から見て、時系列的に前にある条件であるために過去形になっています。前段の「im Rückblick auf ein Jahrhundertereignis(今世紀最大と言えるような出来事を振り返ってみるとき)」の視点がそのまま持続していると解釈できます。


【原文】

5. Und die Leopoldina hat auch recht, wenn sie uns mahnt, nach der Zeit des Zurückfahrens die möglichst höchste Berechenbarkeit für die weiteren Maßnahmen dann auch aufzuzeigen. Ich meine, wenn wir ganz realistisch sind, dann müssen wir… die Winterzeit geht bis Mitte März. Das ist eine überschaubare Zeit von Anfang Januar bis Mitte März, die kriegen wir hin.


【日本語訳】

5. 国立科学アカデミー・レオポルディーナが、制限措置実施期間が過ぎてから、その他の措置に関してできる限りの予測可能性を示すよう勧告するのも正当性があります。つまり、まったく現実的に見て、冬期は3月半ばまでです。1月から3月半ばまでの見通しの効く期間です。それはなんとかできるでしょう。


【解説】

dann müssen wir…:ここで一度文が途切れています。原稿なしのアドリブで話していれば、文を途中で止めて、違う文で言い直すようなことはよくあることです。


【原文】

6. Wir werden dann nach menschlichem Ermessen einen Impfstoff haben, dann wird sich das von Monat zu Monat verbessern. Wir müssen uns jetzt noch einmal anstrengen. Wir haben schon so viele Monate mit diesem Virus verbracht, und wir haben doch gelernt: Wir können etwas dagegen tun!


【日本語訳】

6. その後、おそらくワクチンの接種が可能になり、そうしたら、状況は毎月改善していくことでしょう。私たちは今、もうひと頑張りしなければなりません。すでに何か月もこのウイルスと共に過ごし、学んできました。私たちはこれに対抗できることを!


【解説】

nach menschlichem Ermessen:字義通りには「人間の判断に従えば」といった意味ですが、一般的な人間が判断できる限りで考えられることを指し、「多分」「おそらく」のように意訳できます。

einen Impfstoff haben:字義通りには「ワクチンがある」としか言ってませんが、ワクチンは既に存在していて、認可待ち状態なので、ここは「verfügbar haben 利用可能である」の意味で解釈し、「ワクチンの接種が可能になり」という日本語訳しました。

mit diesem Virus verbracht:日本の報道風に「何か月もウイズコロナの時期を過ごした」のように訳してもいいかもしれませんね。


【原文】

7. Das ist ein bisschen unmenschlich, dass ich immer auf Distanz gehen muss, dass ich keinen treffen soll, und wenn, dann nur mit Schutzvorrichtung - das ist richtig – und das mit diesem Mund-Nasen-Schutz. Aber das ist ja auch nicht etwas, was unser Leben total zerstört! Und deshalb sollten wir schauen, dass wir nicht zu viele Menschenleben zerstören und gleichzeitig, - das wissen wir ja, damit die Wirtschaft am Laufen halten. Und in diesem Sinne bitte ich Sie, auch die nächsten nicht einfachen Tage mit uns gemeinsam durchzustehen. Herzlichen Dank.


【日本語訳】

7. その対抗策はやや非人間的です。いつも距離を取って、誰にも会わないとか、会うとしたら保護用具を装着しなければいけない、そうです、このマスク装着などですね。けれども、それは生活を全般的に破壊するようなものでもないではありませんか!だからこそ、人々の生活を破壊しすぎることなく、同時に、当たり前のことですが、それによって経済活動を維持するように尽力すべきでしょう。この意味で、皆さんにお願いします。引き続き、決して楽ではない日々を私たちとともに耐え忍んでください。心より感謝します。


【解説】

und wenn, dann:wenn ich jemanden treffe, dann の省略形です。寸前の文が条件になる場合によくこのような省略が起こります。

Schutzvorrichtung:Vorrichtungというと通常は装置を表します。集中治療室で使用されるような本格的な防護服などを一瞬想像したのでしょう。それでは「私が人に会う」の文脈で大げさだと考え直して「Mund-Nasen-Schutz(マスク)」と言い直したと考えられます。

sollten wir schauen:字義通りには「見るべき」ですが、dass副文や zu不定詞句を伴うと「~するようにする」という意味になります。

Menschenleben zerstören:ここは「人の命」ではなく、「生活」や「生活基盤」の破壊を指しています。


・・・・・

メルケル首相のスピーチを理解する上で重要な点は、まず、いかに「世界で最も影響力がある」と言われる彼女でも、ドイツの憲法・基本法(Grundgesetz)に規定された権限を超えて各州首相を黙らせ全国一律のコロナ対策を実施することはできないということです。

11月のソフトロックダウン(ロックダウン・ライトとも呼ばれる)が官邸と各州首相間で合意された時、彼女は「Ich hätte mir noch mehr gewünscht(本当はもっと多く(の措置の合意)を願ったのですが)」と合意内容が彼女から見れば不十分であったことに対する苦々しさを表明しています。

なぜ彼女が合意された措置が「不十分」であると考えたのか、その根拠はウイルス学者たちの進言にあり、経済優先ではなく、人命優先の対策の必要性を切実に感じていたからです。


メルケル首相は、自身が物理学博士号を持つ学者であることから、学術的知見を真摯に捉える姿勢を持っています。このため、ウイルスの存在自体を疑い、コロナ対策措置を人権侵害であるとして反対デモをマスクをせずにする流れがあることに対してもかなりいら立っています。この12月9日の演説の中盤ほどで、彼女は自分が物理学を研究したことに言及し、「man kann alles außer Kraft setzen. Aber die Schwerkraft nicht(どんなことも効力を失わせることはできるが、重力を無効にすることはできない)」と言って、学術的知見を否定する向きを批判しています。


メルケル首相は、よく「左派だ」と言われますが、そういうレッテルでは彼女の政治姿勢の全貌を理解することはできません。なぜなら、彼女には冷酷な一面も、経済優先の一面もあるからです。ただ、2015年の難民政策や現在のコロナ政策に関しては、ベルリン=ブランデンブルク福音主義教会牧師の娘として育った彼女のキリスト教的倫理観が強く出ていると考えられます。統計の数字の裏に一人一人の人間、誰かの家族・大切な人である人命を見ることができる政治家なのです。このため、「毎日数百人もコロナで亡くなっているのに、なぜ、コロナ自体を否定したり、感染拡大の原因である接触を徹底的に減らす厳しい措置に反対するのか」という悔しさ・もどかしさが今回のスピーチで爆発したと見えます。











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