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ドイツ語を流暢に話せるようになるには

はじめに


「どうしたらドイツ語を流暢に話せるようになりますか」


ドイツ語教育に携わるようになってからよくこういう質問を受けます。

確かに、ドイツ語に限らず外国語をネイティブのように流暢に話せるのは単純にカッコいいですよね。

そうなる「コツ」や「秘訣」のようなものがあるのではないかと期待している方には残念ですが、そういったものは存在しません。もしかしたら何かの宣伝文句・煽り文句としてはそのようなものがあるかのように客引きをするケースもあるかもしれませんが、そういったものに高額を支払う価値はありませんのでご注意ください。Ohne Fleiß kein Preis(蒔かぬ種は生えぬ)と諺に言うように、楽して(お金だけ払って)得られる成功はありません。


たいていの方は、流暢に話せるようになるには「地道な努力が必要」ということは分かっていても、その地道な努力とは実際どういうことをすればいいのか具体的に何も思いつかないのではないでしょうか?

「場数を踏めばいい」とはよく言われますが、ドイツ語が話されている地域に住んでいるか、日本に居ながらにしてドイツ語を話す機会も多い方はほんの一握りです。


テクノロジーの発達により、今では家に居ながら世界中にいる様々な人々と繋がることが可能になり、ZoomやSkypeを利用した会話レッスンも多く提供されています。

かくいう私自身もZoomでドイツ語お話し会などを提供しておりますが、ただやみくもにそのようなレッスンをすれば「流暢さ」を得られるのかといえば、もちろんそういうことではありません。


会話レッスンの頻度を考えてみてください。多くても週2回くらいなのではありませんか?

そのレッスン以外にドイツ語を話す機会はありますか?

もし、レッスン以外にも話す機会があるのであれば、授業で学んだことをすぐに実践で使うことができるので、かなりの相乗効果が期待できます。

でも、それ以外に話す機会がないのであれば、その不足を別の方法で補う必要があります。


そこで「不足しているもの」とは具体的に何なのか、まずそれを知る必要があります。

つまり、流暢に話すための前提条件とは何なのか、これを知らないことには「地道な努力」もしようがありません。


流暢さの段階と前提条件~カギはスピード


読解力や書く能力にレベルの違いがあるように、話す場合の流暢さにも段階があります。

一言で流暢さといっても人によって定義も要求水準も異なります。

最低限共通する定義は「ある一定レベルの速度でつっかえずに話せる」ことでしょう。

そこにはとりあえず、文法的な正しさや語彙・表現の選択の正しさ、発音の美しさ、総合的な表現力といったものは含まれていませんし、話せる範囲の広さも言及されていません。

これでは曖昧過ぎて対策のしようもありませんからさらに具体化する必要があります。


流暢さの第一段階は、「ある一定レベルの速度でつっかえずに話せる」に話せる範囲を限定する「日常的で身近なルーチンのコミュニケーションにおいて」という条件が加わります。さらに、意思の疎通が図れる程度の作文力と発音も前提条件として重要です。

つまり、流暢さで最も優先されるべきは「スピード」であり、文法・語彙・発音の正しさはさほど重要ではありません。目標は「許容範囲内」に入ることです。


なぜ「スピード」なのでしょうか?

会話の際、業務連絡でもない限りメモは取りませんよね?

このため、発言はすべていわゆる作業記憶に一時的に保存され処理されることになります。

この作業記憶は、個人差はありますが基本的に非常に小さいメモリーで、保存期間もかなり短いので、ひとまとまりの情報が入ってくるスピードが遅いと、文の終わりの頃には始まりが何であったのか忘れてしまうわけです。これでは意思の疎通が阻害されてしまうので、一定のスピードが重要なカギとなるのです。


文法的な間違いや発音の多少の不正確さは、聞き手の脳内で適当に補完・変換できることが多いため、あまり問題になりません。補完・変換がうまくいかない場合は「こういうことですか?」と確認を取ることもできます。

それに対して、インプットスピードが遅いと聞き手の脳のアイドリングが無駄に長くなってしまい、ひとまとまりの情報を作業記憶に収められないため、補完・変換も不可能になってしまいかねません。聞き手が思いやりがあり、察しのいい人であれば、その状況から話し手の言わんとする意図を汲み取ることも可能でしょうが、そういう人でなければ対処に困ってイライラするだけです。

だから会話を成立させるには「スピード」が第一なんですね。

どうしたらその「スピード」を出せるかについては、次章を参照してください。


流暢さのレベルアップとは、さらにスピードアップすることではなく、1) 表現の精度(文法的な正しさや語彙・表現の選択の適切さ)を上げていくことと、2) 話せる範囲を広げていくこと、3) 発音の母語の訛りを減らしていくことの3本柱です。


この3つの中で3番目の発音が実は一番短期間でクリアできるのですが、一番ないがしろにされるところでもあります。

多くの人が自分の発音がネイティブの「許容範囲内」に入ったことで満足し、「とりあえず通じるからいい」で終わらせてしまうからです。

自分に対する要求水準は人それぞれですから、それが悪いとは言いませんが、流暢さのレベルは中級程度ということになります。そのままでいいのかどうか、それはあなたの生き方や価値観次第です。

発音は名刺・肩書よりも強烈に相手の印象に残り、人物評価の判断基準になることは確かですので、ドイツ語で仕事をして評価を得たい、または仕事自体を得たいと考えている方であれば、訛りの少ないきれいな発音ができるように頑張りましょう!



どうしたら話すスピードが速くなるのか~カギは自動化


流暢さのカギであるのは「スピード」であることは前章でお分かりになったことと思いますが、では一体そのスピードはどうすれば出せるのでしょうか?

その回答を一言で表すなら「Automatisierung 自動化」です。


実にありふれたことですが、ルーチン化した作業は速くできるものですよね?もちろんその日の体調や集中力などで絶対的な速度には揺れがありますが、相対的に見て、慣れないことよりも慣れたことの方が速くできるのは一つの真理です。


話すことはルーチンです。

どれほどドイツ語の知識が豊富でも、読解力や文法力に優れていても、話すことがうまくない(あるいはほとんど話せない)大学教授や講師などが多いのもこのためです。

話す能力だけは知識だけではどうにもならないのです。

むしろ、知識を知識として意識している限り流暢に話すことはできません。知識を呼び出して作文し、口に出すまでの過程に時間がかかり過ぎてしまうからです。

楽器の演奏に譬えるならば、どの音を出すにはどこを指で押すのかなどをいちいち考えて実行するようなものです。それでは曲を演奏することは到底無理ですよね?

話すのもそれと同じなのです。格変化や人称変化、単語の選択、前置詞の格支配などなどをいちいち考えて作文しているようでは流暢さは夢のまた夢の話です。


「知識」を「知識」として意識しなくなる、つまり、無意識にできるようになることを「自動化」といいます。


ではこの自動化はどうすればできるのでしょうか?


楽器の演奏の話を持ち出したことでおおよそ想像がついたのではないかと思いますが、そうです、「練習」あるのみです。

「人と話す」ことを本番とするならば、そのためのリハーサルが必要なのです。剣道やラケットを使う競技で言えば「素振り」ですね。

まずは簡単なフレーズで顔の筋肉を動かす練習をします。


例えば自己紹介は初対面の人がいる場では必ずするものなので、語学初心者が最も自動化しやすいものだと言えます。自己紹介だけはスピーディーにできても、その後のスモールトークになるとしどろもどろになってしまう人が多いのはこのためです。


とっさの時にすばやく演奏できるレパートリーを増やすことで、どんどん「話せる範囲」が広がっていきます。

演奏するためのレバートリーですから、単語を1つ1つ覚えて暗記・暗唱しても無意味です。

Herzlichen Glückwunsch zum Geburtstag!Viel Erfolg! あるいは Ich habe zwei Jahre in Deutschland gewohnt. などのように必ずしも完成した一つの文である必要はありませんが、少なくとも in der Stadt, mit dem Auto, mit der Bahn などの前置詞+定冠詞+名詞からなる前置詞句や Auto fahren, zum Arzt gehen, einen Antrag stellen などの動詞句のようにまとまったチャンクをできる限り多く覚えることが肝要です。

このようにチャンクで覚えることで無意識に正しい格変化を一緒にインプットでき、また無意識にアウトプットできるようになります。


そうしたチャンクを確実に覚えていくためには、それ自体を何度も書いたり暗唱したりすることも間違いではありませんが、最も確実なのは自分で自分に合った例文を作り、それを何度も暗唱することです。

また、聞いてこれはと思うセリフ、いつか使ってみたいと思えるセリフを真似して暗唱するのもいいでしょう。

これは文字を見ながらの「読み上げ」ではなく、「暗唱」でなくてはなりません。

また、一度にたくさんやっても意味がないので、一日3つくらいのチャンクまたはフレーズを学習することをお勧めします。


大切なのはあなたが面白いあるいは使ってみたいと思える、つまり、あなたにとって重要性があるものであることです。


脳はとても自己中心的にできているため、自分に関係ないこと・重要でないことは容赦なく記憶から抹消していきます。SNSなどで毎日たくさんのニュースや情報をインプットしている気になっていても、では「先週は何がありましたか」と質問されてすらすらと3つ以上の情報を挙げられる人は少数派なのはこのためです。

つまりそれだけ重要でない「インプット」のために時間を無駄にしているとも言えるわけですが、それはさておき、「インプット」が実際には長期記憶に移行しないため、本当の意味ではインプットになっていない点も見逃せません。


さまざまなインプットが長期記憶に移行するカギは、自分にとっての Relevanz 重要性です。

自分にとっての重要性とは、内容的に自分の関心のある分野であるということばかりでなく、楽しい・おもしろいといった感情の動き、積極性・能動性、そして反復も含まれます。


積極性・能動性とはありていに言えば「アウトプット」のことです。自分で関心を持って考えて行うことが脳にとっての重要性を増し、長期記憶に残りやすくなるわけです。

人に教えるとその内容が記憶に残りやすいのはそのためです。


反復の大切さは語学の勉強に限らず一般的な学びの効果を得るための手段として、忘却曲線などとセットで説明されることが多いですが、実は脳が3回以上同じ事を聞くと、それを重要(かつ真実である)と錯覚する傾向があることにも由来します。

だから大事なメッセージが少なくとも3回相手に届くようにするのがマーケティング手法や説得術・人心操作術の基本でもあるわけです。


このようにして暗唱できる文やフレーズのレパートリーを増やすことで、本番の会話で条件反射的に完成した文法的にも正しい文やフレーズをそのまま取り出せるのでスピードが増していきます。

また、レパートリーの多くなれば即興も可能になり、どんどん「話せる範囲」も広がっていきますので、頑張ってレパートリーを増やしていきましょう!

その際にはぜひ Steckenpferd の「口語表現」コーナーにある「Häufigste Redewendungen」もご利用くださいませ。

さらに表現力を向上させたいという上級者の方は同コーナーの「Redewendungen」の方も参考にしてください。


まとめ


流暢に話せるようには地道な努力が必要です。


流暢さには段階があり、スピード、表現の精度、話せる範囲、発音の4つの柱があります。

最初に到達すべきなのはコミュニケーションに差しさわりのないスピードです。

このスピードを出せるようになるには、知識をインプットするばかりではなく、それを無意識で使える自動化が必要です。


自動化の単位は単語ではなく、最低でも前置詞句や動詞句、できれば文やセリフ全体の方が望ましいです。

そのようなまとまりのある単位を長期記憶にとどめるためには、自分にとっての重要性(興味関心、楽しい・面白い、積極性・能動性、反復)を意識した文を積極的に作って暗唱することをお勧めします。


暗唱できるレパートリーが増えれば、流暢さのスピード以外の柱である表現の精度を向上させ、話せる範囲も広げられます。

発音に関しては別途トレーニングを通して母語の訛りを減らしていく必要がありますが、まずは「通じる範囲内」に収まることを目指しましょう。

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