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執筆者の写真Mikako Hayashi-Husel

恋愛をドイツ語で考える

更新日:2020年6月6日

今回のテーマは「恋愛」です。

ドイツ語をよく知らなくても、「Ich liebe dich(私はあなたを愛している)」をご存じの方は多いと思いますが、いかがでしょうか。

でも、恋をし始めの頃にこれを言う人はまず居ません。それよりも気持ちのランクが低い「Ich hab dich lieb」や「Ich mag dich」といった日本語の「好き」に相当することを言うのがせいぜいか、そういう気持ちの表明を一切しないこともあるかもしれません。

とりあえず、「恋に落ちる」「恋する」ことが先ですよね。

日本語の「恋(こい・こひ)」という言葉には相手を「乞う(こふ)」、「乞い求める」というニュアンスが入っていて、本来はどちらかというと遠く離れて手の届かないもの・人を慕うまたは求める気持ちを表しています。「恋しい」という語感にそれが残っていますね。そういう気持ちは、ドイツ語の「sich sehnen nach DAT」に相当します。

例:

Ich sehne mich nach meiner Heimat. 私は故郷が恋しい、懐かしい。

Ich sehne mich im Stillen nach ihm. 私はひそかに彼を慕っている・憧れている。

誰かまたは何かに対する憧れや思慕・憧憬は「die Sehnsucht nach DAT」と言います。「Sucht」という「探し求める」を意味する言葉と組み合わせられるところが興味深いですね。

では、「恋に落ちる」はどうかというと、これは「sich verlieben in AKK」です。

sich ver- というパターンの再帰動詞は主に状態変化を表します。sich verlieben は「自分を「誰かを愛する」という状態に変える」のように了解すると構造が理解しやすくなるかもしれません。

口語では通常現在完了で「Ich habe mich in ihn verliebt(私は彼に恋をした)」などのように言いますが、小説などでは例えば「Auf dem ersten Blick verliebten sich die zwei ineinander(一目で二人は恋に落ちた)」のように過去形を使います。

ちなみに「一目惚れ」は Liebe auf dem ersten Blick です。みなさんは経験ありますか?私は18の時に日本の大学に入学したばかりの時にそういう経験をしました。当時は一目惚れしたという自覚はなかったのですが、あとから考えるとそうだった、という感じでしたね。若い頃の大恋愛 Große Liebe の思い出です。

恋をすると、何かと気もそぞろになり、ふわふわ落ち着かない気持ちになりますよね。恋をしている状態は、sich verlieben の状態受動で「verliebt sein」と言い、その名詞形は Verliebtheit です。この状態と不可分であるのが「abgelenkt sein(気もそぞろ、気が散っている)」状態ですが、なぜ目の前のことに集中できないかと言えば、もちろん恋する相手のことに気を取られてふわふわしているからですよね。

このふわふわをドイツ語では「Kribbeln im Bauch haben(お腹の中がムズムズする)」と言います。「Kribbeln im Bauch」というタイトルのラブソングもあります。

この Kribbeln(ムズムズ)を Schmetterlinge(蝶々)に言い換えることもできます。これはもともとは英語の表現「butterflies in the stomach」をドイツ語訳したものです。

例:

Ich habe Kribbeln (Schmetterlinge) im Bauch. 私、恋しちゃった(恋してる)。




恋愛がうまくいけば、幸せで舞い上がりますよね。アドレナリンが分泌されまくってるだけだと言ってしまえば身も蓋もありませんが、そういう舞い上がった状態のことを「im siebten Himmel sein(第7天国にいる)」と言います。これはキリスト教世界観に基づくもので、天界を階層として捉えて、その最高層にあたる第7天国には神と天使たちが住まうとされています。そんな最高層の天界にいるかのように舞い上がっているということですね。

同じ表現は英語(to be in seventh heaven)、フランス語(être au septième ciel)、

スペイン語(estar en el séptimo cielo)などのヨーロッパ言語にもあります。


ドイツ語に独特な表現と言えるのは、この「第7天国」をもじった「auf Wolke sieben schweben(雲の7番地にふわふわ漂っている)」ですね。

7番地を付けずにただ「auf Wolken schweben(雲の上でふわふわ漂っている)」とも言います。

「Im siebten Himmel(第7天国で)」というタイトルのフォークソングの中でその表現が出てきます。



こうして浮かれた状態の中で、いつか「この人しかいない」「この人以外考えられない」と思うようになるかと思いますが、そういう時は「Du bist der Richtige(男性) für mich / Du bist die Richtige(女性) für mich」と言って、その確信を表現します。これを言葉通りに「君は私にとって正しい人、またはふさわしい人」というとなんだか上から目線のような、違う感じになってしまいますが、実際は「君以外パートナーとして考えられない」という排他性を表しています。

このような確信に至って初めて「Ich liebe dich(私はあなたを愛している)」を言います。なので、実はものすごく重い言葉なんですね。

もっとも最近の若い方が同じように感じてこの言葉を使うのかまたは使わないのかについては交流がないので分からないのですけれども。

もちろん、das glückliche Paar 幸福なカップルであっても、もしかしたら数年後に気持ちが冷めてしまうこともあり得ます。「いい夫婦 いまはどうでも いい夫婦」というサラリーマン川柳のようになってしまったら、やはり「Ich liebe dich」は言わなくなりますね(笑)


この記事の動画版はこちら:








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閲覧数:956回1件のコメント

1 Comment


bluewater1887
bluewater1887
May 17, 2020

Mikakoさん、はじめまして。メルケル首相の演説の翻訳を読ませていただいて、登録しました。とても演説の内容に感動しましたが、この演説を翻訳で読めることにも感動しました。外国語が分かると情報が増え、世界か本当に広がりますね。

今回、恋愛のテーマでしたが、大学で第二外国語でドイツ語を学んでいた時、好きだったシュルトムなどの作品を思い出し、とても懐かしかったです。

ドイツは新型コロナの対応でも先行していますね。私も仕事で不特定多数の方が利用する施設を管理しているのですが、再開の際の対策について検討しています。どんな感染防止策を取っているのかなど、現地の情報を紹介していただけると参考にしたいと思います。

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