絶滅危惧種の格、Genitiv + 形容詞



属格支配の形容詞は、統語法的には前置詞と区別がつかず、多くは繋辞動詞 sein や werden を伴います。意味的には、所有や関与を表すグループと、認知・知覚や能力を表すグループ、その他のようにざっくり3つに分類することができそうです。

とはいえ、「認知・知覚」は広い意味で「持っている(所有)」状態の1つと言えるのですが、これ以上追及すると果てしなく哲学的になりそうなので、ここでは止めておきましょう。


1)所有や関与

  • bar 欠いている, frei ない/免除された(von + Dativ も可能), voll(von + Dativ も可能)/ voller でいっぱいの。例:voller Zweifel(疑念でいっぱいの)


  • ledig を免れている, verlustig を失った。例:seiner Vorrechte verlustig(特権を失った)。通常、Genitiv の後に後置されます。


  • habhaft を入手する、捕える, teilhaft / teilhaftig に関与〈参加〉している <-> unteilhaft に関与〈参加〉していない。例:allgemeiner Anerkennung teilhaftig werden(皆から功績を認められた)。通常、Genitiv の後に後置されます。


  • unbenommen / ungeachtet / unbeschadet にかかわりなく。unbenommen は稀。 例:ungeachtet der Tatsache(その事実とはかかわりなく)。指示代名詞の属格 dessen とのコンビネーションでは、dessen ungeachtet も ungeachtet dessen も可能です。意味は trotzdem や dennoch と同じ「にもかかわらず、しかしながら」。


  • schuldig する責任がある, verdächtig の疑いがある。例:einer Antwort schuldig(回答する責任がある)。通常、Genitiv の後に置されます。


  • müde / satt / überdrüssig うんざりした(3つとも von + Dativ も可能)例:des Lebens überdrüssig(生きるのに飽いた)。通常、Genitiv の後に後置されます。


2)認知・知覚

  • eingedenk / gedenk 考慮して <-> ungedenk を考慮せず。例:eingedenk seiner Verdienste(彼の功績を考慮して)。


  • gewahr に気づく, gewärtig を覚悟・予期している, gewiss / sicher を確信している。例:des Äußersten gewärtig(最悪を覚悟して)。通常、Genitiv の後に後置されます。


  • fähig の能力がある, mächtig を支配している・自由に操れる, kundig を知っている <-> unkundig を知らない。例:der deutschen Sprache mächtig(ドイツ語をマスターしている)。通常、Genitiv の後に後置されます。



3)その他

wert の価値がある, würdig に値する <-> unwert の価値がない, unwürdig に値しない。例:eines Blickes wert(一見する価値がある)。通常、Genitiv の後に後置されます。


unweit から遠くないところに <-> weitab 遠く離れて。例:weitab des Zentrums(中心部から遠く離れて)。



以上ですが、Genitiv の前に来るものは形容詞 Adjektiv ではなく、前置詞 Präposition として分類されることが多いです。では後置されるものは後置詞 Postposition ではないのかという疑問がわきますが、今まで「後置詞」として分類されているのを私は見たことがありません。

品詞の分類というのは絶対的なものではありません。大まかうまく分類できるものの、必ずどうもおさまりの悪いどっちつかずの扱いづらい言葉があるものです。前置詞なのか形容詞なのか、どちらでも別に正書法的な扱いが変化するわけではないので、結局実際の使用においてはどっちの分類でもまったく関係ありません。

ところが、品詞の分類で「名詞 Substantiv」かそうでないかは、ドイツ語の正書法においては名詞は大文字で書き出すという規則があるため、書き言葉においてはなかなか悩ましい問題になります。例えば、Ich habe Angst. では、動詞 haben が直接目的語を要求するため、Angst は目的語を表す名詞で、大文字で書きます。ところが、Mir ist angst und bange. では動詞 sein は非人称用法で、mir(私にとって)という与格の人称代名詞にとっての状態を描写する形容詞を要求しますので、angst は形容詞で、小文字で書くことになります。

他にも新正書法においては zu gu­ter Letzt(結局、最後には)と分離して書きますが、gu­ter という形からすると、Letzt は女性名詞(単数、与格)ということになります。でも、本当に die Letzt という独立する名詞があるのかというと、それは疑問です。なぜなら、それがこの「zu gu­ter Letzt」でしか使わず、もともとの意味である Letze(別れの晩餐)が明らかに失われているからです。このように元の意味が形骸化していて他では使われないようなものは、たとえ理論的・形態的に要素を分離することができたとしても独立品詞として扱うべきではないという議論もあったのですが、結局「zu gu­ter Letzt」が「正しい書き方」として定められた経緯があります。


言語は、発展の歴史という縦糸と、同時代における地域や使う人の社会的階層やグループという横糸が複雑に織りなされた3次元的絨毯のようなもので、常に活発に細胞分裂をしている「新しい層」と不活発だけれども依然として存在し続けている「古い層」があります。そのすべてを網羅する一律的な規則というものは稀で、何かと「例外」を形成する原因でもあります。

属格もどちらかと言えば「古い層」の方に属しています。だからこそ「絶滅危惧種の格」と題したシリーズでその用法を拙ブログでご紹介してきたわけですが、実を言えばそれほど切羽詰まって絶滅に瀕しているというところまでは来てません。世に教養人が存在し、雅語を好んで使う人がいる限りは、属格も当分安泰であることでしょう。


属格支配形容詞または前置詞(アルファベット順):

bar, begierig, eingedenk, fähig, frei, froh, fündig, gedenk, gewahr, gewärtig, gewiss, habhaft, kundig, ledig, mächtig, müde, satt, schuldig, sicher, teilhaft, teilhaftig, überdrüssig, unbenommen, unbeschadet, ungeachtet, ungedenk, unkund, unkundig, unteilhaft, unweit, unwert, unwürdig, verdächtig, verlustig, voll, voller, weitab, wert, würdig





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