Mark Twain マーク・トウェインの「Die schreckliche deutsche Sprache/The Awful German Language(ひどい言語、ドイツ語)」という英独2言語で2010年に出版された本をご紹介したいと思います。
この本がうちに来たのはいつなのか、よく覚えていないのですが、自分で買ったわけではなく、本のディスカウントショップから何冊かの本を買ったときにおまけでついてきたものです。そのまま数年放置したままだったのですが、ふとしたところで彼の著作からの引用「Die deutsche Sprache sollte sanft und ehrfurchtsvoll zu den toten Sprachen abgelegt werden, denn nur die Toten haben die Zeit, diese Sprache zu lernen.(ドイツ語は、そっとうやうやしく死んだ言語に入れるべきだ。なぜなら死人しかこの言語を習う時間がないからだ。)」にぶつかったために、この本の存在を思い出して読み始めたらかなり面白く、あっという間に読み終わってしまいました。
文庫本よりもやや大判の本で95ページありますが、左のページは英語、右のページはドイツ語になっているので、1言語だけで読んだ場合、正味42ページの内容です。
もともとは1880年に米語で出版されたもので、2010年にKim Landgrafのドイツ語訳付きでAnaconda Verlagから復刻出版されました。
140年の歳月を超えてなお、この作品はドイツ語に関わる者たちにユーモラスな共感をもたらします。
主にマーク・トウェインのハイデルベルクでのドイツ語苦労話なのですが、初心者が避けては通れない名詞の格変化、形容詞の格変化、名詞の性について、いかにそれがばかげているかを女漁師の話まで作って示すあたりが独創的でおかしいです。
また、ずらずらと言葉をつなげて1語になる複合語の悩ましさや、文の中でなかなか現れない動詞、分離動詞の接頭辞が忘れた頃に来る、何重もの入れ子構造の文など、ドイツ語の難しさを指摘しています。
彼のドイツ語との格闘ぶりは以下の文に最もよく表れています。
Jemand, der nie Deutsch gelernt hat, macht sich keinerlei Vorstellung, welchen Ärger diese Sprache bereiten kann.
Es gibt bestimmt keine andere Sprache, die so schludrig und planlos gebaut ist und sich dem Zugriff so aalglatt und flüchtig entzieht. Man wird darin hierhin und dorthin gespült, ohne sich auch nur im Geringsten wehren zu können; und wenn man endlich glaubt, eine Regel gefunden zu haben, die einem sicheren Boden unter den Füßen bietet, auf dem man sich inmitten des allgemeinen Aufruhrs der zehn verschiedenen Wortarten ein bisschen ausruhen kann, blättert man um und liest: >>Man trage nun Sorge, dass der Schüler folgende Ausnahmen beachtet.<< Dann lässt man das Auge über die Seite wandern und stellt fest, dass es zu dieser Regel mehr Ausnahmen als Anwendungen gibt.
【試訳】 ドイツ語を学んだことがない者は、この言語がどれだけ腹立たしいか、考えてもみない。 こんないい加減で無計画に構成され、ウナギのようにぬるっと理解からすり抜けていく言語はきっと他にはない。ほんのわずかでも抵抗することができないまま人はあちらこちらへ流されるのだ。そして、10種の品詞が飛び交う一般的な混乱の只中で少しばかり休憩できるような、足元に確かな土台を提供する規則をついに見つけたかと思えば、ページをめくるとこんなことが書いてある:「ここで生徒が次の例外に注意するように促すこと。」 そのページに目を走らせると、この規則には適用例よりも例外の方が多いことに気づくのだ。
現代ドイツ語では、トゥエインの時代のようなひどい入れ子構造の短期記憶を極限まで消耗させるような文章は目立たなくなっていると思います。19世紀末の文章スタイルの一種の流行りだったのだと思います。その代わり、現代では英語からの外来語がやたらと増えましたね。
この本の最後の方で、トゥエインは、「才能のあるものであれば、英語を30時間(正書法と発音は除く)、フランス語は30日で覚えられるが、ドイツ語を覚えるのには30年かかる、と確信している」と書いています。この後で、最初に引用した「ドイツ語は死んだ言語に入れるべき~」が続きます。
もちろん誇張ですが、英語を母語とする彼がいかにドイツ語を難しく感じたかがよく分かりますね!(笑)
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