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【書籍紹介】フェルディナント・フォン・シーラッハ著『Verbrechen 犯罪』

Ferndinand von Schirach(フェルディナント・フォン・シラッハ)の『Verbrechen(犯罪)』は刑事弁護人(Strafverteidiger)としてベルリンで活動している著者が扱った事件を元にしたストーリー集です。邦訳が創元推理文庫からすでに出ているのでご存じの方が多いかもしれませんが、ご紹介させていただきます。

私が読んだのは、Piper Verlagの2011年版を基にした電子書籍(132ページ)です。


収録短編は以下の11編です。

  1. Fähner(フェーナー)

  2. Tanatas Teeschale(タナタの茶器)

  3. Das Cello(チェロ)

  4. Der Igel(ハリネズミ)

  5. Glück(幸運)

  6. Summertime(サマータイム)

  7. Notwehr(正当防衛)

  8. Grün(緑)

  9. Der Dom(大聖堂)

  10. Liebe(愛)

  11. Der Äthiopier(エチオピア人)


犯罪自体は一見まぎれもなく悪で、犯罪者は罰せられるべき悪者と思えますが、実際には非常に複雑・多層的です。


この短編集は犯罪者たちの人間としての顔を明らかにし、読者に彼らへの共感を持たせるように仕向けると同時に、現行法では証拠不十分で裁けない犯罪者たちと、現場の刑事や検察が釈然としない気持ちを持ちながらもそういう「おそらく犯罪者」たちを野放しにせざるを得ないやるせなさも浮かび上がらせます。


特に「Tanatas Teeschale(タナタの茶器)」という短編は気味の悪い謎が残ったままで野放しの犯罪者の犯した犯罪のほうがえげつないです。

「Ich(私)」が弁護人として助けたのはそこらのチンピラでタナタという金持ちの家に空き巣に入り、現金の他に茶器の入った金庫を盗んだ犯罪者たちです。彼らは茶器の価値など分からず、それを古道具屋に二束三文で売ってしまいますが、タナタがその茶器に賞金を懸けて探したため、ベルリンのある地区を締めているボス格のやくざ者が大金を得ようとその茶器を手に入れて、別のチンピラを使ってタナタにコンタクトを取るのですが、この二人はその後こっぴどい殺され方をします。それで怖くなった盗みを働いたチンピラたちが自首をするという話なのですが、誰がどのようにこの殺人を行ったのかは明らかにされません。感じから言ってタナタが誰かプロを雇ったとしか考えられないのですが、その辺りは謎のまま話が終わります。


「Notwehr(正当防衛)」も釈然としないものが残るエピソードです。タイトルの通り正当防衛の話なんですが、地下鉄の駅でチンピラ二人に絡まれて攻撃されたので二人を撃退し、殺してしまいます。どうやらプロらしいのですが身元も何もわからないし、ひたすら黙秘をするので実に困ったケースとなるわけですが、結局「過剰防衛」にあたる過剰さが見られないということで釈放されます。

ただ、刑事の一人は、その地下鉄の駅からいくらも離れていないところで見つかったもう一人の死体がその人と関係あるのではないかと「感じ」ている、というところで話が終わります。刑事の勘だけで一人の人間を拘留し続けることはできませんからね。


この2編以外は殺人や強盗を犯した犯人たちの已むに已まれぬ事情や行動の理由付けが語られていて、罪は罪だけど情状酌量の余地があると思われるようなケースです。

40年連れ添った妻を斧で殺してしまった医師、ある理由があって銀行強盗を働いた男、愛情から弟を殺す姉、いきなり彼女を食べたい衝動に駆られてナイフで背中を切りつけた青年の話など、信じられないような本当の話です。



2011年6月15日刊行のフェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(酒寄進一訳)は2009年にドイツで刊行されたハードカバー第1版のVERBRECHENを底本に翻訳刊行しているため、その後に出版されたペーパーバックの増改訂版とは異なっている箇所があるそうで、日独語を読み比べるのであれば新版が出てからの方がいいのかもしれません。

けれども、ドイツ語の読解力を身に着けるためであれば、まず邦訳を読んで大まかな内容をつかんでからドイツ語原文にあたるとすんなりと理解でき、原語の表現自体を味わう余裕が出てくるかもしれません。


法律用語がそれなりに出てくるとはいえ、文体自体はシンプルなので、推理小説が好きなドイツ語学習者の方にはお勧めだと思います。











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