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sich(再帰代名詞)って要らなくない?

更新日:2022年5月15日

偶然「sich(再帰代名詞)って要らなくない?」というツイートを目にした時は目が点になりました。「そんなわけないでしょう」と思いましたが、そのツイートに賛同するリプライがいくつもあり、さらに驚きました。


そんなわけで、今回は sich(再帰代名詞)を不要に感じてしまう方のために再帰動詞の基礎を説明していきたいと思います。


(動画版は途中から画面共有が切れていますので、用例は以下のテキストを参考にしてください。)


再帰代名詞 Reflexivpronomen


再帰代名詞は一人称と二人称では、普通の人称代名詞の対格(4)・与格(3)と同じですが、三人称では単数・複数の区別がなくsichとなります。

再帰代名詞(対格)

再帰代名詞(与格)

再帰性 Reflexivität


再帰代名詞はいわゆる再帰動詞と共に使われるので、そのように呼ばれていますが、そもそも「再帰」とは何なのか考えてみたことありますか?

「再び帰る」と言われる所以は、動作主(主語)自身に動作の作用が返ってくる性質にあります。

つまり、基本は他動詞(~を~する)であり、「~を」という目的語の部分が他人であるか、動作を行う人物(主語・動作主)自身であるかの違いなのです。


「sich setzen 座る」の基本は他動詞「setzen 据える」で、「自分を据える」と言うように、「据える」という動作の作用が動作主(自分)に戻ってくると考えられます。

日本語では「腰を据える」という表現があり、自分全体ではなく自分の一部である「腰」を使いますが、考え方は再帰動詞の「sich setzen 座る」と同じです。

ちなみに自動詞「sitzen 座っている」は、「gesetzt sein 据えられている」という状態受動と考えられます。


似たような関係は「legen 横たえる」、「sich legen 横たわる」、「liegen 横たわっている = gelegt sein」にも見られます。


話が少しそれましたが、再帰性の本質は動作の作用を他者ではなく自分自身に向けることにあります。このため、多くの再帰動詞は、再帰代名詞以外の目的語を取る他動詞でもあることが多いです。


これらはたいていの場合、日本語の他動詞(または使役動詞)と自動詞に対応します。


他動詞としての用法がなく、再帰用法しかない動詞は、「狭義の」再帰動詞と呼ばれます。

例:

  • sich ausruhen 休む、休息する

  • sich bedanken 礼を言う、感謝する

  • sich beeilen 急ぐ

  • sich befinden 存在する、ある

  • sich beschweren 苦情を訴える(他動詞「etwas beschweren ~を重くする、苦しめる」とは意味のずれが大きい)

  • sich betrinken 酔う、酔っぱらう

  • sich eignen …に適している、向いている

  • sich entschließen 決心する

  • sich ereignen 起こる

  • sich erkälten 風邪をひく

  • sich erkundigen 問い合わせる

  • sich verlieben 恋に落ちる

  • sich wundern 驚く



相互性 Reziprozität


再帰代名詞が使われる再帰動詞の中には、相互性の意味がある動詞も少なくありません。

「verstehen 理解する」を例に取り、主語をS、目的語をOとすると、以下の図のような関係が成立します。


相互性とは、それぞれが自分自身に作用している(私たちはそれぞれ自分自身を理解している)のではなく、お互いに相手に作用している(私たちはお互いに理解し合っている)ことを指します。

この相互性を強調するために einander という相互代名詞 Reziprokpronomen が使用されることもあります。


wir lieben uns と言えば、通常は「私たちは愛し合っている」という相互性の意味で理解しますが、ジョークとしてわざと再帰性の意味で使うこともあります。


Wir lieben uns: Ich liebe mich und du liebst dich!


日本語では「~し合っている」という相互性に独自の表現があり、再帰性の表現とは異なるため、このジョークを再現するのは難しいですが、ドイツ語では einander という相互代名詞を使わない限り、再帰動詞を使った文が再帰性と相互性の両方の意味を持ち得るということはご理解いただけたかと思います。


代表的な相互動詞の例は以下の通りです。

  • sich abstimmen (mit jemandem über etwas) (…と)話し合って(…についての)意見を調整する

  • sich austauschen (mit jemandem über etwas) (…と…について)論じ合う、意見交換する

  • sich besprechen (mit jemandem über etwas) (…と…について)相談〈協議〉する

  • sich einigen (mit jemandem auf etwas) (…と…で)合意する、意見が一致する

  • sich unterhalten (mit jemandem über etwas) (…と…について)語り合う、歓談する

  • sich treffen (mit jemandem) (…と)会う

  • sich verabreden (mit jemandem) (…と)会う約束をする

話し合い、約束、会合などどれも一人ではできないことです。ドイツ語でそういうことを表すのは、相互性の意味を持つ再帰動詞なのです。


ドイツ語の再帰動詞は多くの場合、日本語でも形は違えど他動詞(使役動詞)・自動詞の違いという区別に対応するので、sich(再帰代名詞)が要らないのではないか、などとはもう思えなくなりましたよね?


与格の再帰代名詞と使われる動詞


対格の再帰代名詞と使われる再帰動詞は、原則として日本語の他動詞(使役動詞)・自動詞の違いに対応するものとして理解できたかと思いますが、与格の再帰代名詞が使われる動詞には違うロジックが働いています。

「S + V + sich(再帰代名詞)+ O」という文型になることが多いですが、対格の直接目的語を取らない他動詞の再帰用法で、「S + V + sich(再帰代名詞)」の文型であることもあります。


「S + V + sich(再帰代名詞)」の例:

  • sich schaden 自分を損なう~ jemandem schaden …を損なう

  • sich helfen 自分を助ける(自助努力)~ jemandem helfen …を助ける


「S + V + sich(再帰代名詞)+ O」文型における再帰代名詞は、大雑把に言って「関与」を表します。動詞(V)との関与(1)なのか、目的語(O)との関与(2)なのかで二つに大別できます。

  1. 動詞で表される行為によって行為者自身が被害・恩恵などを受ける

  2. 目的語が行為者に属する


1.の中でも狭義の再帰用法には以下の動詞が挙げられます。

  • sich etwas ansehen じっくり見る、吟味する

  • sich etwas aneignen (知識・習慣・態度など)を身につける;着服・横領する

  • sich etwas anmaßen 不当にまたは思い上がりで…をする

  • sich etwas ausdenken …を考え出す

  • sich etwas einbilden …と思い込む

  • sich etwas merken …を覚える、記憶に留める

  • sich etwas vorstellen …を想像する(「jemandem etwas vorstellen 人の前に…を提示する」という他動詞の用法が根底にあり、「自分に…を(目の前に提示されたように)思い浮かべる」と比喩的に使われているとも解釈できるので、狭義の再帰用法に入るかどうか議論の余地あり)

1.の中で、再帰代名詞の代わりに別の名詞・代名詞の与格を挿入することも可能な用例や再帰代名詞が必ずしも必要でない用例は、広義の再帰用法です。


例:

  • sich Sorgen machen 心配する~ jemandem Sorgen machen …に心配をかける

  • sich Tee machen/kochen 自分のために紅茶を入れる~ jemandem Tee machen/kochen …のために紅茶を入れる


2.のカテゴリーでは、主語が動作ばかりでなく直接目的語とも関与(主に所有・所属関係)しますが、直接目的語は動作主の体の一部や身につける物であることがほとんどであり、再帰代名詞を省略しても非文法的とは言えません。このため、この用法も広義の再帰用法と言えます。


例:

  • sich die Zähne putzen (自分の)歯を磨く

  • sich die Hände waschen (自分の)手を洗う 

  • sich die Haare kämmen (自分の)髪をとかす(sich (Akk.) kämmenともいう)

  • sich die Schuhe anziehen/ausziehen (自分の)靴を履く/脱ぐ


まとめ

  1. 狭義の再帰動詞は再帰用法以外の用法がない。

  2. 広義の再帰動詞では対格の再帰代名詞の代わりに別の対格目的語を取る他動詞用法がある。日本語の自動詞と他動詞・使役動詞に対応する。

  3. 与格の再帰代名詞を伴う再帰用法では、「S+V+sich(再帰代名詞)+O」という文型になることが多いが、与格の目的語しか取らない他動詞の再帰用法の場合もある。

  4. 与格の再帰代名詞が直接目的語と関与する再帰用法では、所有・所属関係を表し、目的語は身体部位身につける物のことが多く、再帰代名詞を省略しても文法的な間違いとは言えない。








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