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「よろしくお願いします」はドイツ語でなんという?

「よろしくお願いします」は日本語では様々な状況で使える便利な表現の1つですが、それをドイツ語でいうとなるとかなりの内省的考察を必要とします。というのは、「よろしくお願いします」に1対1で対応する便利なドイツ語表現がないからです。このため使う状況によってどういうニュアンスが込められているのかを考えてドイツ語にしなければなりません。その際に、ドイツ社会での習慣やマナーも考慮する必要があるため、容易なことではありません。ここでは「よろしくお願いします」を使う様々な状況でドイツ語ではどう言えるか、いくつかの例をご紹介します。


1)初対面のあいさつ

知り合いの人にその人の友人または知り合いに自分を「こちらはAさん」などと紹介してもらった場合、一昔前なら (Sehr)angenehm が「初めまして。よろしくお願いします」のドイツ語訳にあてられていましたが、現在ではそれはもはや一般的な表現とは言えません。使われる機会と言えばハイソな集まりやお上品なパーティと言ったところでしょうか。ですので、庶民の日常で angenehm というのはその場にはそぐわないのです。Sehr erfreut や es freut mich などのバリエーションもありますが、それらはすべて形式ばった言い方です。

では今はどういうのが一般的かというと、以下のようになります。

Guten Tag! / Guten Abend!(時間帯による)

Hallo!

Hi!

え?と思われるかもしれませんが、誰かに紹介された後の第一声はこういう普通のあいさつです。この後に自分をどう呼んで欲しい(nennen Sie mich X)とか、お会いできて光栄です(sehr verehrt, Sie kennenzulernen)的なことを言う場合もありますが、基本的には Hallo や Guten Tag を言った後にただにっこり笑って握手して、状況が許せばその後スモールトークが始まります。

これではあまりにも簡単すぎて物足りないという場合、Freut mich を Hallo や Guten Tag の後に言い添えるといいでしょう。

Freut mich は、

Es freut mich, Sie kennenzulernen(お会いできてうれしいです)

の省略形です。クライアントなど、自分より立場が上の人に対しては省略形ではない方がいいです。

相手がそのように言った場合の答えとしての「こちらこそよろしくお願いします」は、

Die Freude ist ganz auf meiner Seite!

Ganz meinerseits!

Mich auch!

です。一番上が一番丁寧な言い回しです。Mich auch は「こちらこそ」しか言わない感じですね。


SNSのグループに参加する場合は、

Vielen Dank für die Aufnahme (in die Gruppe)!

という感じに受け入れてくれたことに対して感謝の意を表すことが多いです。日本語では「承認ありがとうございます。よろしくお願いします。」と言いますけど、ドイツ語では前半部分だけで十分です。


2)自己紹介の締めくくり

誰に対して自己紹介したのかでも若干ニュアンスが違うとは思いますが、「私はどこそこのだれだれです、なになにしてます」と自己紹介した後に言う「よろしくお願いします」について考えて見ましょう。

たとえば何らかのグループに新たに参加する際に、すでにいるメンバーに向かって自己紹介して「よろしくお願いします」という場合。

Hallo allerseits! Ich bin Hanako, ... Ich freue mich,

  1. hier dabei zu sein.

  2. in dieser Gruppe mitzuwirken.

  3. mit euch/Ihnen zusammen etwas Großes zu erreichen.


Ich freue mich(嬉しいです)の後に嬉しいまたは楽しみにしている内容を適当に言えばいいのですが、一番適当というかたいして気持ちのこもっていない「よろしくお願いします」に相当するのは上の 1. だと思います。dabei sein の原意は「その場にいること」で、大抵の場合「仲間である、仲間入りしている」と言うようなニュアンスで使われます。SNS内の何か共通の趣味とかのグループに参加する時などはこの表現が適切です。

2.と3.はすでにグループでどうしたいのかという抱負を抽象的に語っています。仕事関係のプロジェクトグループに参加する場合はこちらの方が適切でやる気をアピールできます。日本語のニュアンスとしては「頑張りますのでよろしくお願いします」という感じです。

Ich freue mich auf gute Zusammenarbeit (mit Ihnen).

はビジネス関係でいろいろ使える表現です。「これからいい協力関係を築いていきましょう」というニュアンスです。auf が使われているのは、Zusammenarbeit がまだ実現しておらず、未来のことであるためです。


3)「今日はよろしくお願いします」

面接や講演会やインタビューなどその日その時に行うことを「よろしくお願い」する場合、これは依頼の一種と考えられますが、やや特殊な状況です。「今日はお時間いただきありがとうございます」「今日はご足労頂きありがとうございます」などの後に言うような「よろしくお願いします」ですね。

Vielen Dank, dass Sie sich heute Zeit für (mich/uns/das Interview/den Vortrag) genommen haben! Ich freue mich auf (unser Gespräch/unser Interview/Ihren Vortrag)! 今日は(私/私ども/インタビュー/講演)のためにお時間を割いていただきありがとうございます。(お話/インタビュー/講演)を楽しみにしています。

日本語ではまだ依頼のニュアンスが残っているのですが、ドイツ語では単に「楽しみにしている」というのが原意の言葉を使います。「その期待を裏切らないようによろしくお願いします」というふうな解釈です。


4)「それではよろしくお願いします」

挨拶や前置きや紹介などを済ませて、本来の仕事(取材・インタビュー・講演・プレゼンなど)を始める時に言う(こともある)「よろしくお願いします」です。

Wenn Sie bereit sind, können Sie anfangen. (Bitte sehr!) 準備ができましたら始めてください(どうぞ!)

Herr/Frau Müller, bitte schön! ミュラーさん、どうぞ!(講演者やプレゼン担当者に)

So, wollen wir loslegen? では、始めましょうか?

anfangen, starten, beginnen, loslegen はどれも「始める」という意味で、同義語ですが、loslegen にはやや腕まくりして何かを始めるようなアクティブなニュアンスがあります。


5)依頼内容の後に言う「よろしくお願いします」

これこれしていただけますか?(または~してください)という依頼の後に言い添える「よろしくお願いします」は一般的に

Vielen Dank im Voraus für Ihre Bemühungen/Ihre Unterstüzung/...

Vielen Dank vorab für ...

など前もってお礼を言うドイツ語に相当すると思います。依頼内容はすでに伝えてあるので、それを実行する労苦・手間(Ihre Bemühungen)あるいは相手の協力(Ihre Unterstüzung)に対して先にお礼を言ってしまうのは、相手が断ることを想定していないからです。どちらかというと対等な同僚同士などで、相手の担当職務に属することを依頼するので、断ることを想定していないときなどに使います。

譲歩するつもりのない、上から目線の「これこれでよろしくお願いします」は、

Bitte machen Sie es so. Vielen Dank.

ですね。Bitte が使われているとはいえ、命令形に代わりはありません。後ろに「ありがとう」を付けてもその上から目線は変わりません。


また、「これやっといて。よろしく」なら

Bitte das übernehmen. Danke.

不定詞は命令形の代用です。こういう言い方は上司が部下に対してくらいしかできません。上司は Weisungsbefugnis(指示を与える権限)を持っていますので、その権限内での指示であれば、こういう言い方をしても部下には当然のこととして受け入れられます。


丁寧に依頼して、「どうか断ったりしないでください」という願いを込めて「よろしくお願いします」、というかどちらかというと「よろしくお願いいたします」または「よろしくお願い申し上げます」というニュアンスでは、

Ich wäre Ihnen sehr verbunden/dankbar, wenn Sie meiner Bitte nachkommen würden. 私の依頼(お願い)を受けてくだされば大変ありがたいのですが

Ich würde mich sehr freuen, wenn Sie mir dies tun könnten. これ(上述の依頼)をしてくだされば、大変うれしいのですが

のように言えます。

基本的に接続法過去 Konjunktiv II を使うと丁寧な表現になります。仮定・非現実で話をしており、それを現実のものにするかどうかは相手次第であることを表しているからです。

別稿「Bitte を使えば丁寧?」もご覧ください。


6)メールの締めくくり

手紙では草々や敬具などを締めくくりとして書きますが、メールでは「よろしくお願いします」で締めくくることが多いですよね。ドイツ語では手紙の場合と差がなく、


Mit freundlichen Grüßen

Freundliche Grüße

Viele Grüße


などで締めくくります。

上から順にフォーマル度が低くなっていきます。


7)「(誰か)のことをよろしくお願いします」

家族の誰かがどこかへお邪魔しに行く時や子どもを預かってもらう場合などに「~のことをよろしくお願いします」と先方に挨拶を入れておくことがよくあります。

相手も実家の親など家族である場合は、

Bitte seid nett zu ihm/ihr/ihnen.

Bitte kümmert euch um ihm/sie.

などのように「やさしくしてね、お世話してね」みたいに頼むことができます。


ご近所の人や施設などに子どもを預かってもらう場合は、

Danke, dass Sie heute auf (meinen Sohn/meine Tochter/meine Kinder) aufpassen. (息子/娘/子供たち)の面倒を見てくれてありがとうございます

Danke, dass Sie sich um meine Kleinen kümmern. うちの子の面倒を見てくれてありがとうございます。

のように言えます。


同じように介護の必要な老親を介護ヘルパーさんにお願いする場合や施設のデイケアに預かってもらう場合も言えます。

auf jemanden aufpassensich um jemanden kümmern の他、jemanden betreuen/umsorgen/pflegen も使えます。

子どもや要介護の人以外の人物のことを「よろしくお願い」する場合は、こうした「世話をする」系の動詞はあまり使いませんが、食事や寝床の用意などのお客に対する普通のもてなしをお願いする場合であれば sich um jemanden kümmern や umsorgen を使えます。

相手が家族でない場合は基本的に Bitte ~ではなく、Danke や nett von Ihnen/dir/euch などのようにお礼を言う方がドイツでは一般的です。


日本語の使用状況や込められたニュアンスについては私が主催するFacebookのドイツ語グループのメンバーの方のご意見を参考にさせていただきました。


動画版はこちら。


3:09 初対面のあいさつ

9:14 自己紹介の締めくくり

13:20「今日はよろしくお願いします」

15:21「それではよろしくお願いします」

16:40 依頼内容の後に言う「よろしくお願いします」

24:00 メールの締めくくり

25:22「(誰か)のことをよろしくお願いします」






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