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ドイツ語翻訳者になるには?


翻訳技術などを扱った文献を漁っても、やはり対象言語は英語ばかり。


ではそれ以外の言語の翻訳者になるにはどうしたらいいのか。

今回の話題はまさにそれです。


まずは、商品としての翻訳に対する要求水準と、人間の翻訳者がAI(機械翻訳)に取って代わられることのない理由についてこちらの動画をご覧いただきたい。


きっちりとスピーチ原稿を用意して話したわけではないので、話が前後したり、やや要領を得ない部分もあるかもしれませんが、要するに商品としての翻訳に対する要求水準は非常に高く、機械翻訳はその処理方法の原則が改善されない限り、人間の翻訳者の翻訳品質に遠く及ばない、と言うのが結論です。


とはいえ、機械翻訳は実務翻訳の世界にとっくに入り込んでおり、今後ますます増えるのは確実です。それに伴い、新たな業務として MTPE(Machine Translation Post Editing)の仕事が増えています。要するに機械翻訳のままでは全く商品にならなくても、翻訳のコスト削減と効率化を図るために下訳として利用して、人間の翻訳者が校正と仕上げを受け持つという一種のマシーン・ヒューマン・コラボレーションです。人間の翻訳者は品質保証として生き残るわけですね。


実務翻訳の水準がいかに高いかは、翻訳実務検定試験 TQE(Translator Qualifying Examination)を受けてみればきっと実感できることでしょう。合格率は5%以下のこの試験は、自分の翻訳に対するコメントの他、模範訳文と解説ももらえるため、受けるだけでも勉強になります。検定試験は英語以外の言語でも実施しており、ドイツ語も年に2回受験できます。

詳細はこちら


翻訳の理想は、訳文が読み手に翻訳であることを感じさせないこと、まるで最初から日本人が日本語で書いた文章であるかのように思わせる滑らかさを有していることです。

これは、原語を知っている・理解しているというだけでは到底到達できるものではありません。


勉強の仕方


ではどうしたらいいのか。

これについては次の動画をご覧いただきたい。



まずは翻訳者にとって勉強が必要な分野を知っておいていただきたい。そのような理論が確立されているわけではありませんが、私の考えでは次の四つです。

  1. 対象言語(ドイツ語)

  2. 翻訳技術

  3. 日本語

  4. 専門分野(リサーチ力含む)

翻訳技術に関する参考文献として、岡田信弘著「翻訳の布石と定石 実務翻訳プロへの道」がお勧めです。英語から日本語への翻訳についての本ではありますが、「横のものを縦にする」技術の基本は、ドイツ語に応用できるので、英語独特の構文を扱ったものを除いたとしても、参考になるものは多いです。


また、「横のものを縦にする」過程でより分かりやすい訳文を作るためには、縦であるところの日本語の構造もしっかりと押さえておく必要があります。そうでないと原文の構造に引きずられた少々不自然な語順の訳文が出来上がってしまいます。


私もよくやるミスですが、翻訳校正の仕事をしていて、他の翻訳者さんたちも例外なく頻繁にやっているミスでもあります。一応、誤訳ではありませんし、それなりに日本語になっているのですが、ぱっと読んで理解しづらいのは、語順の並べ替えをしていないことが原因であることが多いです。


しかし、「選ばれる翻訳者」とは、滑らかな訳文を作れる人です。

翻訳の理想形に少しでも近づけるようにお勧めしたいのが本多勝一著、「新版 日本語の作文技術」です。古典とも言える本ですが、文章の内容構成を検討する以前の問題として、日本語の語順を体系的に扱っているので、翻訳作業に非常に役立ちます。


英語やドイツ語から日本語への翻訳の工程は、本質的には「横のものを縦にしてから並べ替える」ことだと思います。これによって、少なくとも表層的な訳文の滑らかさは実現できます。


それに加えて、日本語として誤用をしていないかどうかを常に確認する必要があります。

譬え口語で市民権を得てきている用法(「全然+肯定表現」など)であったとしても、商品としての翻訳文には用いない方が無難です。原文がすでに口語である場合は別ですが。


最後に専門知識についてですが、これは初めから持っていて、その関係上自分で翻訳する必要が生じたとか、翻訳してみたいと思ったとか、そういう方は、「アップデート」する程度で構いません。


けれども、特に専門分野を持っていない私のような語学屋は、リサーチ力で勝負するしかありません。あとは興味のある分野は勉強してどんどん知識を増やし、そうして得た知識を翻訳に反映させていくことだと思います。


仕事の取り方


仕事の取り方は出版翻訳と産業翻訳ではかなり違います。


出版翻訳では、出版社の編集者が1)原著を探して、2)翻訳者にリーディング(原著の要約・レジュメを日本語で書く)を依頼し、3)複数のレジュメを比較検討の上、翻訳出版する本を決定し、4)版権獲得後、5)翻訳、6)構成・編集を経て、7)出版に至ります。


翻訳者としては2)と5)の工程で求人やオーディションに応募することになりますが、英語ならばともかく、ドイツ語は検討される企画そのものが少ないため、普通に待っていたら機会はまず訪れません。


もし、「どうしてもこのドイツ語の本を翻訳したい」という夢がある方は、ぜひその本のレジュメを作って、そういう分野の本を出版しそうな出版社に持ち込み・売り込みしてください。


産業翻訳の場合は、案件数が圧倒的に多く、1件の語数も価格もピンからキリまであります。それゆえに間口が大きく入りやすいというメリットがあります。

特にTQE合格者・翻訳実務士が求められている案件でない限りは誰でも応募できますので、まずは小さくワード単価の低い案件から挑戦してみるのがいいでしょう。


求人サイト(例)


また、特定案件がない場合でも、さまざまな翻訳会社に翻訳者として登録して、プロフィールに当てはまる案件がある時に声をかけてもらうことも可能です。


いずれにせよ、トライアルに通ることが前提です。

ワード単価の低い案件は、要求水準も低いことが多いので、未経験者や駆け出し翻訳者でもトライアルに通りやすいというメリットがあります。報酬は二の次で、とにかく実務経験を積むためには意味のある入り方だと思います。


というのは、「翻訳実務士」のような資格を求めていなくても、「実務経験3年以上」などの経験を求めるケースが比較的多いからです。

日本の求人ではトライアルに通らないと感じたら、英語がある程度できることが前提ですが、海外の求人サイトに目を向けて、そこで低価格案件を受けて実務経験年数を稼ぐのもありだと思います。


私自身は在独で、日本の求人サイトを知らなかったということもあり、ドイツ語で調べているうちに Upwork や Proz.com に辿り着き、そこから仕事を始めました。最初は会社勤めの傍らの副業で、月に200ユーロくらいのお小遣い稼ぎができればいいくらいの気持ちでやっていました。


みなさんも「翻訳者デビュー」などと大きく考えず、トライしてみてはいかがでしょうか。

もちろん、やるからには仕事ですから、その時点での自分のベストを尽くすこと、受けた仕事を途中で投げ出さないことは当然の心得としていただきたいと思いますが。


実際の話、翻訳者が途中で逃げることはたまにあります。

私が翻訳校正を担当していたプロジェクトで、翻訳担当者が途中交代したり、交代要員がいなかったために、私自身が翻訳を担当する羽目になったりしたことが何度かありました。


翻訳の締め切りが守れずに延期するということはもっとよくあります。

これは、校正者の立場から言うと、やはりかなり迷惑です。というのは、別案件がすぐ後に控えている場合があり、予定が狂ってしまうからです。

代わりに翻訳をさせられるよりは時間的ダメージは少ないですが、なるべく納期は守ってほしいですね。








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