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執筆者の写真Mikako Hayashi-Husel

ドイツ語を使えるようになるまでどれくらいかかる?

更新日:2021年6月1日

今回は日本人の英語力について興味深いデータがあったので、それを手掛かりにドイツ語の習得ではどういうことが言えるのかについてお話したいと思います。

基本的には英語もドイツ語も同じ印欧語族のゲルマン語派に属しているのと、そもそも外国語習得の原理は変わらないため、英語の学習に言えることはドイツ語の学習にも当てはまります。


日本人の平均的な英語力

日本人の平均的な英語力が低いのは周知の事実ですが、どのくらい低いのか最新のデータを見るとちょっと衝撃的な低さです。

2017年度のトーフルIBTの国別平均では、日本は、アジアの29の国と地域の中で下から3番目、アフガニスタンと同点の26位でした。


1位のシンガポールから7位のバングラディシュまでは英語が公用語もしくは準公用語の国なので日本人より英語力が高いのは理解できますが、インドネシアや韓国、台湾、ベトナム、ミャンマー、中国、タイ、モンゴル、カンボジアよりも日本の英語力が低いという事実は残念というよりも驚きではありませんか。

特にスピーキングに関しては、アジアの29の国と地域の中で単独最下位の17点で、リスニング、リーディング、ライティングも総じて低いので、「日本人はスピーキングとリスニングは苦手だが、受験英語のおかげで読み書きはできる」というのが幻想にすぎないことが明らかです。


もうちょっと新しいデータで2019年の EF EPI 英語能力指数、世界100か国・地域の英語力ランキングを見ると、中国や韓国が「標準的英語能力」の評価を受けているのに対して、日本は「低い英語能力」の認定を受け、100か国中53位で、ベトナムよりランクが下となっています。



英語と類似性の高いヨーロッパ諸国の英語能力が高いのは当然ですが、本来なら高い教育レベルを誇る日本人の英語能力が、同じように英語とはかけ離れた言語を話す中国や韓国などよりも劣っていることは、日本語の特殊性だけでは説明できません。


日本人の英語力が低い理由

もちろん、日本人にとって、文法も発音もなにもかも違う英語(その他のヨーロッパ諸語)が非常に難しいというのは英語力の低さの1つの理由です。

ここでご紹介したいのは、米国務省の Foreign Service Institute(外交官養成局/FSI)が公表している英語を母語とする人にとっての言語習得の難易度をカテゴリー分けしたリストで、カテゴリーごとに該当する外国語を習得するために必要な学習時間を示しています(下はThe English Clubから転載)。「習得」とはここでは、「Professional working proficiency」(仕事で使用できるレベル)を指しています。ヨーロッパ言語共通参照枠のレベル分けではB2に相当します。


マーク・トウェインがかつて「才能のあるものであれば、英語を30時間(正書法と発音は除く)、フランス語は30日で覚えられるが、ドイツ語を覚えるのには30年かかる、と確信している。ドイツ語は、そっとうやうやしく死んだ言語に入れるべきだ。なぜなら死人しかこの言語を習う時間がないからだ。」とその難しさを揶揄していたドイツ語が、この外交官養成局の分類でヨーロッパ言語としては唯一カテゴリーIIに入っているのがちょっと笑えますね。


それはさておき、日本語は英語ネイティブにとって超難関言語であるカテゴリーIVに分類されており、B2習得までの必要学習時間は2200時間とされています。カテゴリーIの言語のゆうに3.5倍の学習時間がです。同じカテゴリーにはアラビア語、中国語、韓国語が入っています。

必要学習時間に関しては、日本人にとっての英語習得にも概ね当てはまると考えられ、B2に達するまでに2200時間必要と言えます。ところが、日本人は中学・高校で6年間英語を勉強しますが、英語の授業時間はトータルでたった790時間程度なので、学習時間が2200時間の半分にも達していません。

そればかりか、学習時間だけでなく、学習量も全く足りないことが指摘されています。関西学院大学教授で心理言語学・応用言語学者である門田修平氏によると、2006年の中学・高校の一般的な英語の教科書を調べた結果、6年間で触れる単語数のトータルは35,000語程度だったそうです。これは、英語のペーパーバックの72〜73ページ分にしかなりません。その程度の英語に触れただけで英語ができるようにならないのは当然と言えます。


加えて、学習方法がいまだにラテン語のように死んだ言語を学ぶような、いわゆる「文法訳読方式」が一般的であることも英語能力の低さの理由として挙げられます。「文法訳読方式」とは、簡単にいうと「文法を重視して、訳して読解する方法」です。この方式で実践力が身に付くことは永遠にありません。私自身、印欧語歴史比較言語学をドイツの大学院で副専攻として学び、その中でラテン語、ギリシャ語、サンスクリット語など数多くの死んだ言語をこの方式で学習しましたが、それらが一切身についてないことは身をもって証明できます。全然自慢になりませんが、この方法がダメなことは自分の経験から100%断言できます。

また、この方式に偏っていると、必然的に発音がおざなりになります。英語の音韻は日本語のそれとはかけ離れているため、本来ならば特に練習する必要があるところなのに、それをしないので、リスニングもスピーキングも一向に上達できないわけです。


結論

日本人はただでさえ言語タイプがかけ離れた英語を習得するためにヨーロッパ人に比べて3倍以上の学習時間を必要としているにもかかわらず、学校での標準的な学習時間および学習量が圧倒的に不足しており、その学習方法が実践向きではないため、英語能力が低くて当然だと言えます。


正しい外国語学習方法


外国語学習には様々なアプローチがあり、中には怪しげなモノも少なくないですが、基本的に「楽な方法はない」ということだけは確実に言えます。

近道があるかないかについての議論もありますが、習得にかかる平均的な学習時間や触れる必要のある語彙・単語数をはしょることができないため、その意味では近道はありません。ただし、必要な学習時間を短期間で消化すれば記憶効率がよいため、たった1年で、週2時間・6年かけるのと同等またはそれ以上の学習効果を得ることは可能です。この「期間短縮」を近道と言うこともできるでしょう。


語学の到達目標レベルを、上の外交官養成局も基準としている「Professional working proficiency」(仕事で使用できるレベル)、ヨーロッパ言語共通参照枠のB2とするなら、中学英語以上の文法知識はほぼ不要です。

日本人は、受験英語のおかげで一般的に単語力と文法知識は非常に高いものを持っていますが、その知識が使えるようになっていないことが問題です。単語と文法の知識を無意識的、自動的に使えるようにすることを第二言語習得研究では「自動化」と言いますが、その自動化が語学力をアップする最重要課題です。

この自動化は、決まったフレーズを暗記してスラスラ言えるようになるまで練習するという程度にとどまりません。基本的な頻出単語は、その組み合わせ(前置詞句など)も含めて瞬間的に理解し、また、特に考えることなく話したり書いたりできるようになることを指しています。

これができるようになるには、大量のインプットが必要です。まずは中に入れないとアウトプットとして出せないわけです。

インプットのおすすめは、英語字幕のついたニュース動画やドラマ、映画など、あるいはオーディオブックで文字情報と音声情報を同時に得られるものです。意味は正確に理解する必要は、とりあえずありません。気になる分からない単語や熟語・フレーズを調べ、大まかな意味を把握できればOKとします。

英語学習者のために用意されたポッドキャストや動画(例えば Oxford Online English、Podcast English)で、トランスクリプションがダウンロードできたり、練習問題がついているものもいいと思います。

なぜ、文字情報(リーディング)と音声情報(リスニング)を同時に入れるのがいいかというと、どちらの能力も同じ脳の場所で処理されているからです。このため別々に学習するのは効率が悪いのです。


それとは別に、正確な発音や単語の連なりで変化するリエゾン規則などを学び、単語またはフレーズで発音の練習をするといいでしょう。発音の知識・能力とリスニング能力は表裏一体です。もちろん語彙力がなければ理解には及びませんが。


また、アウトプットの練習として、自分の興味のある分野や自分が直面すると考えられるシチュエーションに必要な単語やフレーズをピックアップして集中的に覚えて、スラスラ言える・書けるようになるまで繰り返し練習します。これによって特定分野の語彙力向上・自動化を目指します。いわゆるシャドウイングも自動化には効果的です。


以上が1人でできる語学学習ですが、語学をやる醍醐味は、いろんな人とコミュニケーションを直に取れることですから、状況が許すのであれば、実際に海外に出て、英語を使わずには何もできない環境に自分を置くことをお勧めします。今はコロナで旅行もままなりませんが、やはり語学習得にはターゲット言語が使われているところに行くのが一番手っ取り早いです。

海外に出るのは無理という方でも国内の観光地であれば、外国人観光客も結構いるので、物おじせずに話しかけてみるのもいいと思います。私はドイツ人のダンナと京都に行った時に逆に日本人の小中学生に囲まれて英語のアンケートとかに答えてくださいとか言われたことがあってかなりびっくりしました。それで「私は日本人だから日本語できるよ」と言ったら今度は向こうにびっくりされるという奇妙な経験をしました。こうした子どもたちの物怖じしない行動をそのまま真似する必要はもちろんありませんが、出かけて行った先で外国人観光客に出会う機会があれば、ちょっと話しかけてみてはいかがでしょうか。たとえば「それ、いいでしょう?」「それ、美味しいでしょう?」なんて、彼ら彼女らが見てるもの食べてるもの飲んでるものを指して話題のきっかけにしてみてもいいと思います。


日本は世間体や外聞といった他人の視線を気にする「恥の文化」だと言われますが、語学習得は「トライアル&エラー」を繰り返して上達していくものなので、間違うこと、失敗することを恐れずにいろいろと試すことをお勧めします。

生のコミュニケーションをする機会がどうしても取れない場合は、オンラインレッスンやSNSを通じたコミュニケーションをするといいでしょう。生の迫力はなくなってしまいますが、全然ないよりはましです。


さらに重要なことは、毎日少なくとも15分英語に触れることです。一度に数時間も勉強して、1週間何もしないというペースよりも、毎日隙間時間を利用して勉強していく方が、脳が一度に処理できるキャパを超えずに、また忘却曲線に従って忘れてしまうようなことも避けられるため、効率よく力をつけていけます。


ドイツ語習得

学習方法に関しては、上の英語について述べてきたことがドイツ語にも当てはまります。

ゲーテインスティテュートのサイトによれば、仕事で使用できるレベルであるヨーロッパ言語共通参照枠のB2の試験を受けるには、およそ450~600時間の学習(授業)時間が必要とされています。しかし、この目安は言語が似ているヨーロッパ人の目安と言えます。

ドイツ語は文法規則が厳格であったり、名詞の性が3つあり、形容詞も格変化するなど、英語よりもやや難易度が高くなりますので、日本人がB2レベルに達するには、少なくとも上述の2200時間、通常はそれ以上の学習時間が必要になると思います。


ドイツ語学習者のためのスクリプト付きオーディオファイルやその他の学習用メディアは、ゲーテインスティテュートの無料エクササイズやドイチェヴェレDWのDeutschkurseに提供されているものを利用するといいでしょう。スマホ用のアプリもそちらで提供されています。

YouTubeでもたくさんドイツ語学習チャンネルがありますので、あちこち覗いてみたらいいと思います。


動画版はこちら。







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